・・・ 云ってみれば文化の科学性そのものの弱さと、発揚の場面の限界の狭さとが文化の社会的な性格をもってここにあらわれているのだと思う。寺田寅彦氏の随筆にしろ、愛好する人は尠くないが、果してあれらの随筆は科学者としての寺田博士の高さをそのまま表・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・その後ある必要からゴーリキイの自伝的な作品を読み、ゴーリキイが婦人というものに対して抱いている態度をトルストイやチェホフのそれとくらべて独特な社会的価値を含んでいることを感じている。度々述べられている通り、ゴーリキイの幼年・少年・青年時代は・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・マクシム・ゴーリキイは、その自伝的な作品「私の大学」の中で活々と当時を回想している。「私は外部からの助力を待たず、幸福な機会というものにも望みをかけなかったが、私の中には次第に意志的な執拗さが発達し、生活の条件が困難になればなる程、それだけ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・マクシム・ゴーリキイは、その自伝的な作品「私の大学」の中で活々と当時を回想している。「私は外部からの助力を待たず、幸福な機会というものにも望みをかけなかった。が、私の中には次第に意志的な執拗さが発達し、生活の条件が困難になればなる程、それだ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・その他多くの自伝的回想風の作品を書いた。これらの作品においてもゴーリキイは、自分だけを中心として書かず、自分の周囲の種々さまざまの人々が、それぞれの時代、それぞれの場所で何を考え、どんな行動をしたかということを、鋭い感覚と善良さと、ありのま・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ さて、この自伝の概略から、読者はどういう感銘を得るであろう。ここには、一人のなかなか人生にくい下る粘りをもった、負けじ魂のつよい、浮世の波浪に対して足を踏張って行く男の姿がある。自分の努力で、社会に正当であると認められた努力によってか・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・郭沫若の自伝に、その切ない物語がある。魯迅でさえも、その人間らしい誠実な一生のうちに、この悲劇の一筋をふんでいた。夏目漱石の「行人」は、日本の大正年代の知識人の「家」から蒙っている苦悩こそ、テーマである。 憲法が改正されて、民主的という・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・作者にとって、自伝的な要素が多い主題であるというばかりでなく、ここにはやはり、人間精神というものの自覚において女性は大体男よりも漠然としており、精神の自主への欲望もぼんやりしているという社会的な女のありようが、おのずから反映して来ているのだ・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・ ゴーリキイが沢山かいている自伝的要素の多い諸作品でよくわかるように、ゴーリキイがものごころついてから一九〇一年頃に至るまでの期間は、彼にとって実に苦しい、まだ方向のはっきりきまらない闘争の時代であった。生れつき屈辱に対して敏感であり、・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・ストリンドベルヒはこれに反して社会の断層を描くのに自伝的の匂いをもって貫ぬいている。心理は鋭く、描写はカリカチュアに近いほど鮮やかである。しかも彼の心理観察の周密は常に描写のカリカチュアに堕するのを救う。従って彼の描写は簡素の限度だと言う事・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫