・・・漱石とおのれとの直接の人格的交渉を欲した人は、この集まりでは不満足であったかもしれない。寺田寅彦などは、別の日に一人だけで漱石に逢っていたようである。少なくとも私が顔を出すようになってから、木曜会で寅彦に逢ったことはなかった。また漱石の古い・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・ふと見るとその一人が寺田先生であった。 自分にはこの時一種の驚きが感じられた。この雨の中のわびしい電車に乗るなどということは、よほど特殊な事情によるのである。自分は谷川君との約束を幾度か延ばし延ばししていた罰でこんな羽目になった。しかし・・・ 和辻哲郎 「寺田さんに最後に逢った時」
寺田さんは有名な物理学者であるが、その研究の特徴は、日常身辺にありふれた事柄、具体的現実として我々の周囲に手近に見られるような事実の中に、本当に研究すべき問題を見出した点にあるという。ところで日常身辺の事実が示しているのは単に物理・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫