・・・ 未成年者や児童は安価な搾取材料だ! お前の轢殺車の道に横わるもの一切、農村は蹂られ、都市は破壊され、山野は裸にむしられ、あらゆる赤ん坊はその下敷きとなって、血を噴き出す。肉は飛び散る。お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤー・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・それから学習そのものを楽にたのしんでさせようという程度がすぎて、自立的な児童の探求心がのばされるよりもさきにあんまりたやすく解決が与えられすぎるということにもふれていました。学校教育の方式の中に当然入りこんできているキャナライゼーションとマ・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・として、先輩教員らのへつらい屈伏を目撃し二宮金次郎の話をして児童から「私は金次郎は感心ですけれど万兵衛はわるいと思います」といわれたことを契機に、猛然と自分のかけられてきた師範学校的世界観の魔睡を批判しはじめる。佐田の煩悶がかくして始る。佐・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・疎開児童は田舎へ行って爆弾からは護られたけれども空腹からは護られませんでした。疎開学童は働く楽しみのために農家を手伝ったのではなくて、そうすれば食物を貰えるから、その目的のために働きました。それでも疎開児童が帰って来たときに、親は涙をこぼす・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ 明治三十九年の春、児童心理学をまるで知らない若い感情家の母と、幼い未開人めいたその娘とは、暖い十畳の日だまりで、神の微笑そうな涙を切に流した。 霜のない地面から長閑な陽炎が立つ。 雀が植え込みの椿の葉を揺るささやかな音。程なく・・・ 宮本百合子 「雲母片」
・・・土産屋の前は自動車を廻せる程度の広場なので足場がいいのだろう。大神楽は、永い間芸をした。朝から殆ど軒並に流して来ていたのでもう見物は尠い。土産屋の柱のところに、子供を抱いた男が一人立っていた。あとは子供連だ。その子供連にしても今は仲間同士で・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・チフリスへはコーカサス山脈を横断するグルジンスカヤ山道を自動車で十時間余ドライブして行く筈であった。コーカサスの雄大な美を知りたいと思えば、このグルジンスカヤ山道をおいてはない。そう云われている絶景である。ウラジ・カウカアズが、その起点とな・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 後半、工場で自動鋳造機を入れるようになってからのアサの心のありようは、非常にはっきりとしているばかりでなく勤労婦人として、自分の技術に対してあれだけの自覚と熱意をもつ女は、そうざらにあるまいと思うように描かれている。「やはり自分は働こ・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・況や鴎外漁史は一の抽象人物で、その死んだのは、児童の玩んでいた泥孩が毀れたに殊ならぬのだ。予は人の葬を送って墓穴に臨んだ時、遺族の少年男女の優しい手が、浄い赭土をぼろぼろと穴の中に翻すのを見て、地下の客がいかにも軟な暖な感を作すであろうと思・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・小学の児童としては楠正成を非難する心を持ち、中学の少年としては教育者の僭越と無精神とを呪った。教育者の権威に煩わされなくなった時代には儕輩の愛校心を嘲り学問研究の熱心を軽蔑した。そうして道徳と名のつくものを蔑視することに異常な興味を覚えた。・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫