・・・この場合は前の多くの場合とは反対に枝の末端のほうから樹幹のほうへ事がらが進行するので、この点でも地上の斜面に発達する河流の樹枝状系統によく似ている。 これらの現象を通じて言われることは、普通の古典的な理論的考察からすれば、およそ一様に均・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・ そうかと思うと、たとえばはげしい颶風があれている最中に、雨戸を少しあけて、物恐ろしい空いっぱいに樹幹の揺れ動き枝葉のちぎれ飛ぶ光景を見ている時、突然に笑いが込みあげて来る。そしてあらしの物音の中に流れ込む自分の笑声をきわめて自然なもの・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・木によって違うだろうが楓なら、坐った高さで先ず若葉ごしの日光を受ける幹が目に入る程よくこみ合い、根を張った樹の幹の眺めは、心を落つかせ、実によいものだ。樹幹の風致を充分味わせながら、当然青葉若葉も瞳に映る。明るく、確りしてい、同時に溢れる閑・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
出典:青空文庫