・・・山奥の温泉に来り、なかば自炊、粗末の暮しはじめて、文字どおり着た切り雀、難症の病い必ずなおしてからでなければ必ず下山せず、人類最高の苦しみくぐり抜けて、わがまことの創生記、きっと書いてあげます、芥川賞授賞者とあれば、かまえて平俗の先生づら、・・・ 太宰治 「創生記」
・・・しかるに受賞者の作品を一読するに及び、告白すれば、私、ひそかに安堵した。私は敗北しなかった。私は書いてゆける。誰にも許さぬ私ひとりの路をあるいてゆける確信。 私、幼くして、峻厳酷烈なる亡父、ならびに長兄に叩きあげられ、私もまた、人間とし・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・また器械の廻転軸の捻れを直接光学的に読み取るトーションメーターの考案も最も巧妙なものとして帝国学士院から授賞されたものである。また鉄筋コンクリートで船を造る場合に主応力の方向に鉄筋を入れるという最も合理的な施工法に関する特許を得ている。地震・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・何事かと思って出てみると、国際電報によって昨年度と今年度のノーベル賞金の受賞者の名前の報知が届いた、その一人はアインシュタインで、もう一人はコーペンハーゲンのニールス・ボーアという人だそうだが、このボーアという人はいったいどんな人でどういう・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
先達て「リビヤ白騎隊」というイタリー映画の試写を観る機会を得た。原作はフランスのジョセフ・ペイレのゴンクール受賞作品だそうで、ファッショ紀元十五年度のムッソリーニ賞杯獲得映画である。筋は単純なものである。クリスチアーナとい・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・湯川夫人の日本振袖の姿も、ノーベル賞授賞の式場に異国情緒を添えた。 それぞれの国の民族が婦人や子供、としより連まで固有の服装に身をかざって、その土地伝統の祭りを祝うような日の光景は、はた目にもおもしろく愉しいものだ。けれども、その美・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・当時の文学のありようから、真の新進、精鋭は見出し難く、受賞の範囲は、それぞれの作家の若々しい未来を鼓舞し祝福する方向に赴かず、寧ろ、多難な文学の道をこれまでの何年間か努力をつづけて今日に到っているという作家への、慰労賞めいたものとなった。文・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ ところが、この金襴の帆を順風に孕ませた宝船、文芸懇話会というものの文学に対する性質の矛盾は、この一九三五年七月、文芸懇話会賞が与えられた直後、授賞者決定に当って審査員の投票では島木健作氏が選に入っていたにもかかわらず、公表されない特別・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・の結成 噂のとおり、文芸懇話会が、最後に川端康成氏と尾崎士郎氏とに授賞して、十六日解散した。懇話会の主宰者・元警保局長松本学氏談として、帝国芸術院が出来上って、政府もわれわれの考えるような文化への態度を明らかにして来たから、芸術院に・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ラルフ・バンチ博士はパレスチナ紛争調停の功によって、黒人として初のノーベル賞受賞者である。 バンチ博士の話の中で次の数行に関心をひかれた人は少くないだろうと思う。「人間は社会関係の方面では、自然科学の方と同じような天才を示さない」「自然・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
出典:青空文庫