・・・』と、笑いながら反問しましたが、彼はやはり真面目な調子で、『たとい子供じみた夢にしても、信ずる所に殉ずるのだから、僕はそれで本望だ。』と、思い切ったように答えました。その時はこう云う彼の言も、単に一場の口頭語として、深く気にも止めませんでし・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・窓無聊、たまたま内子『八犬伝』を読むを聞いて戯れに二十首を作る橋本蓉塘 金碗孝吉風雲惨澹として旌旗を捲く 仇讎を勦滅するは此時に在り 質を二君に委ぬ原と恥づる所 身を故主に殉ずる豈悲しむを須たん 生前の功は未だ麟・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ ヤレ愛国だの、ソレ国難に殉ずるのという口の下から、如何して彼様な毒口が云えた? あいらの眼で観ても、おれは即ち愛国家ではないか、国難に殉ずるのではないか? ではあるけれど、それはそうなれど、おれはソノ馬鹿だという。 で、まず、キシニョ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ 衣服の様式は少なからずシナの影響を受けながらもやはり固有の気候風土とそれに準ずる生活様式に支配されて固有の発達と分化を遂げて来た。近代では洋服が普及されたが、固有な和服が跡を絶つ日はちょっと考えられない。たとえば冬湿夏乾の西欧に発達し・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ングン女をひろいところへ押し出しているし、女の心持もいつしか女が好む好まないにかかわらず、変って来ていて、自分としての生活や成長にも思いをかけるようになっているのに、他の現実は男の古風な面、女のそれに準ずる面で実際条件の対決を迫っているので・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
出典:青空文庫