・・・で徳永直氏は、印刷工場の解版女工であるアサを中心に、この複雑きわまる今日の働く婦人の問題にふれているのである。 女主人公アサとの対照として作者は用意ふかく愛子、シゲという二つのタイプを描き出し、結婚に対する態度、工場の高度の技術化のため・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・彼女の博士論文から引出された論によると、女学生の体格は統計上背が高くすらりとしたタイプであり、女工たちの体はずんぐりで低く、四肢が短い。この統計によって見ても明かなように高級な智脳活動にはすらりとした背も高いタイプが適し、工場の労働、農業な・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・先頃もオリンピック熱に煽られた工場内のスポーツが女工を悲惨な死に陥れた話が書かれていた。 プロレタリア文学運動が、運動として退潮して後、民衆の生活を直接取り上げてゆく作家として加賀氏はプロレタリア文学の正当な要素の受け継ぎ手の一人である・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ 一九三九年ごろの軍需インフレーション時代、出版インフレといわれた豊田正子『綴方教室』小川正子『小島の春』などとともに、野沢富美子という一人の少女が『煉瓦女工』という短篇集をもって注目をひいた。「煉瓦女工」は、荒々しく切なく、そして・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 遊覧自動車はそれから東へ東へととって肉市場スミス市場のアーク燈に照らされた白い鉄骨アーケードの下を徐行した。古代ロンドンの城門の一つをくぐった。 一本の街路樹もない、暗い狭い街が現れた。ガス燈が陰気にひのけない低い窓々を照し出して・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・駅の構内に入る為めに、列車が暫く野っぱの真中で徐行し始めた時には、乗客は殆ど総立ちになった。何か異様が起った。今こそ危いと云う感が一同の胸を貫き、じっと場席にいたたまれなくさせたのだ。 停車した追分駅では、消防夫が、抜刀で、列車の下を捜・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・絨緞を織る工場の女工なんぞが通り掛かって、あの人達は木の下で何をしているのだろうと云って、驚いて見ていました。」 暑い夏も過ぎた。秀麿はお母あ様に、「ベルリンではこんな日にどうしているの」と問われて、暫く頭を傾けていたが、とうとう笑いな・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫