・・・るものなるを、世の論者は、往々その原因を求めずして、ただ現在の事相に驚き、今の少年は不遜なり軽躁なり、漫に政治を談じて身の程を知らざる者なりとて、これを咎る者あれども、かりにその所言にしたがいてこれを酔狂人とするも、明治年間今日にいたりてに・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・昔の馬鹿侍が酔狂に路傍の小民を手打にすると同様、情け知らずの人非人として世に擯斥せらる可きが故に、斯る極端の場合は之を除き、全体を概して言えば婚姻法の実際に就き女子に大なる不平はなかる可し。一 父母が女子の為めに配偶者を求むるは至極の便・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・別品といい色男といい、愉快といい失策というが如き、様々の怪語醜言を交え用いて、いかなる談話を成すや。酔狂喧嘩の殺風景なる、固より厭うべしといえども、花柳談の陰醜なるは酔狂の比にあらざるなり。もしも外国人の中に、日本語に通ずること最も巧みにし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・「何ぼ私が酔狂だって、何時なおるか分らない様な病人の嫁さんに居てもらいたいんじゃありませんよ。若し、何と云っても自分の懐をいためるのがいやだと云うんなら誰の苦情があっても、子供のないうちにさっさと引き取らせて仕舞う。 頭の先から・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・人類の意向は、酔狂ではないのだ。 皆が友と成らなければ成らない。皆が互に、互の献物を大切に仕合ってと運ぶべき処が在るのでは無いだろうか、私共の生活を透して、相互に理解し、心から協力し合える範囲が、若し所謂人情の領域にのみ限られているもの・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・彼は自分の醜い姿を水鏡に映して見て、抑え難い歓喜を感じるらしい。彼はその歓喜を衆人の前に誇示して、Faun らしく無恥に有頂天に踊り回るのである。私たちに嘔吐を催させるものも、彼には Extase を起こす。私たちが赤面する場合に彼は哄笑す・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫