・・・凍雨の方は上層で出来た雨滴が下層の寒冷な空気を通過するうちにだんだん冷却して外部から氷結し始めるということは、内部に水や不透明の部分のある事から推定される。また中層の温暖な層の上に雪雲がある場合には、そこから落ちる雪片の一部は中層を通る時に・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・しかるに〇・五ミクロンはもはや黄色光波の波長と同程度で、網膜の細胞構造の微細度いかんを問わずともはなはだ困難であることが推定される。 視覚によらないとすると嗅覚が問題になるのであるが、従来の研究では鳥の嗅覚ははなはだ鈍いものとされている・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・裏の小川には美しい藻が澄んだ水底にうねりを打って揺れている。その間を小鮒の群れが白い腹を光らせて時々通る。子供らが丸裸の背や胸に泥を塗っては小川へはいってボチャボチャやっている。付け木の水車を仕掛けているのもあれば、盥船に乗・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・またこれら分子がまた原子から成立している事も疑いない事で、分子中における原子結合の状況についても各方面から推定を下す手掛りが出来ている。前世紀の末頃までは原子までで事が足りていたが、真空中放電の研究や放射能性物質の研究から更に原子の内部構造・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・この問題に的確に答えるためには、勿論まず毒薬の種類を仮定した上で、その極量を推定し、また一人が一日に飲む水の量や、井戸水の平均全量や、市中の井戸の総数や、そういうものの概略な数値を知らなければならない。しかし、いわゆる科学的常識というものか・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・一里眉毛に秋の峰寒し門前の老婆子薪貪る野分かな夜桃林を出でゝ暁嵯峨の桜人五八五調、五九五調、五十五調の句およぐ時よるべなきさまの蛙かなおもかげもかはらけ/\年の市秋雨や水底の草を蹈み渉る茯苓は伏かくれ松露・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ この推定は、無根拠ではない。何故なら、旧い日本は一九四五年八月十五日にわれわれの内と外とで音たかく壊滅したはずだった。それだのに、きょうのわたしたちの現実にからみついて棲息している旧いものの力はどうだろう。それがいっそういとわしいこと・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 深い紺碧をたたえてとうとうとはて知らず流れ行く其の潮は、水底の数知れぬ小石の群を打ちくだき、岩を噛み、高く低く波打つ胸に、何処からともなく流れ入った水沫をただよわせて、蒼穹の彼方へと流れ去る。 此の潮流を人間は、箇人主義又は利己主・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・いきさつを描きたいことは全作家のひとしき願望ではあるが、著書もそれが社会性乏しくきわめて個人的なものであることを認めている反省的心理叙述を、横光利一のみでなく、私も一人の作家として同じく念願していると推定されるとすれば、それは現実の事情から・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 海にある通りの珊瑚が、碧い水底に立派な宮殿を作り、その真中に、真珠のようなたくさんの泡に守られた、小さな小さな人魚が、紫色の髪をさやさやと坐っています。 なんという綺麗なのでしょう。ユーラスは、すっかりびっくりしてしまいました。今・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫