・・・それが虫喰いだらけで丸でイルミネーションみたいに日光をすかすのを眺めると、さすがの私も「まあ、きれいね!」というより先に「あらアー」と情けない声を出しました。しかしとても捨てることは出来ないから、何れ一つ一つをつくろいましょうが、人に頼める・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・御仙さんもかるくはにかんだように笑いながら私の手にしっかりつかまってすかすようにしてあるいて居る。「おせわさまどした」 おまきさんは煙草をつめながら障子をあけた私達のかおを見て云った。 それから四人丸く坐って祇園のまつりのはなし・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・お妙ちゃんはもう氷りかたまった様な声で斯う云って闇をすかす様にしてしばらく私のかおを見つめて居たが急にクルリと向きなおって暗の中へ――楽屋の方へ行ってしまった。「お百合ちゃん」耳のせいか何かかすかに私の耳にひびいた。私ももうどうにもこうにも・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・佐野さんは、初めはお蝶をなだめ賺すようにしてあしらっている様子であったが、段々深くお蝶に同情して来て、後にはお蝶と一しょになって、機屋一家に対してどうしようか、こうしようかと相談をする立場になったらしい。 こう云う入り組んだ事情のある女・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫