・・・ と身を横に、蔽うた燈を離れたので、玉ぼやを透かした薄あかりに、くっきり描き出された、上り口の半身は、雲の絶間の青柳見るよう、髪も容もすっきりした中年増。 これはあるじの国許から、五ツになる男の児を伴うて、この度上京、しばらくここに・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・ほども遠い、……奥沢の九品仏へ、廓の講中がおまいりをしたのが、あの辺の露店の、ぼろ市で、着たのはくたびれた浴衣だが、白地の手拭を吉原かぶりで、色の浅黒い、すっきり鼻の隆いのが、朱羅宇の長煙草で、片靨に煙草を吹かしながら田舎の媽々と、引解もの・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・いっしょに歩くおまえにも、ずいぶん迷惑を懸けたっけが、今のを見てからもうもう胸がすっきりした。なんだかせいせいとする、以来女はふっつりだ」「それじゃあ生涯ありつけまいぜ。源吉とやら、みずからは、とあの姫様が、言いそうもないからね」「・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・――と自分は水晶のような黒目がちのを、すっきりみはって、――昼さえ遊ぶ人がござんすよ、と云う。 可し、神仏もあれば、夫婦もある。蝋燭が何の、と思う。その蝋燭が滑々と手に触る、……扱帯の下に五六本、襟の裏にも、乳の下にも、幾本となく忍ばし・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・ 十四「洋犬の妾になるだろうと謂われるほど、その緋の袴でなぶられるのを汚わしがっていた、処女気で、思切ったことをしたもので、それで胸がすっきりしたといつか私に話しましたっけ。 気味を悪がらせまいとは申しません・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ それだのに、十歩……いや、もっと十間ばかり隔たった処に、銑吉が立停まったのは、花の莟を、蓑毛に被いだ、舞の烏帽子のように翳して、葉の裏すく水の影に、白鷺が一羽、婀娜に、すっきりと羽を休めていたからである。 ここに一筋の小川が流れる・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・が、枯れた柳の細い枝は、幹に行燈を点けられたより、かえってこの中に、処々すっきりと、星に蒼く、風に白い。 その根に、茣蓙を一枚の店に坐ったのが、件の婦で。 年紀は六七……三十にまず近い。姿も顔も窶れたから、ちと老けて見えるのであろう・・・ 泉鏡花 「露肆」
一 むらむらと四辺を包んだ。鼠色の雲の中へ、すっきり浮出したように、薄化粧の艶な姿で、電車の中から、颯と硝子戸を抜けて、運転手台に顕われた、若い女の扮装と持物で、大略その日の天気模様が察しられる。 ・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ 撫でつけの水々しく利いた、おとなしい、静な円髷で、頸脚がすっきりしている。雪国の冬だけれども、天気は好し、小春日和だから、コオトも着ないで、着衣のお召で包むも惜しい、色の清く白いのが、片手に、お京――その母の墓へ手向ける、小菊の黄菊と・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・坊に物寂びた朝夕を送っていて、毎朝輪袈裟を掛け、印を結び、行法怠らず、朝廷長久、天下太平、家門隆昌を祈って、それから食事の後には、ただもう机によって源氏を読んでいたというが、如何にも寂びた、細とした、すっきりとした、塵雑の気のない、平らな、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫