・・・ きびらを剥いで、すっぱりと脱ぎ放した。畚褌の肥大裸体で、「それ、貴方。……お脱ぎなすって。」 と毛むくじゃらの大胡座を掻く。 呆気に取られて立すくむと、「おお、これ、あんた、あんたも衣ものを脱ぎなさい。みな裸体じゃ。そ・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・もっとも、これは、床屋へはいって、すっぱり綺麗になるというあの「実は」という場面は無くて、おしまいまで、「きたな作り」だそうです。「作り」でもなんでもない、ほんものの「きたな」だった。芝居にも何もなりません。でも、どこか似ているそうですよ。・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・ したがって、八月十五日までは勤労動員で奴隷的労働をしていた青年労働者たちが、三ヵ月ののち、そこに出来た労働組合の青年部員と組織されたにしても、その気持がすっぱりと階級の意識と階級の規律とにつらぬかれた青年労働者として転換しないのはやむ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 悪童は、すっぱりと一つ喰らわされた。Yの洋装に田舎の子らしい反感を持ったのと、手下どもに己を誇示したかったのとが、偶然この少年をして「殴られる彼奴」にした原因だ。帰り、天主堂の坂下にその少年、他の仲間といたが、Yを認めると背中に括りつ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 藍子はすっぱり彼女らしい調子で、「どうなさいます?」と訊いた。「さあ……」「あなたの心持で、責任持ってやらなけりゃいけないものがおありんなるんですか」「いえ、そんなものはありゃしない」「だって……」「いえ、・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫