・・・が、その途中も動悸はするし、膝頭の傷はずきずき痛むし、おまけに今の騒動があった後ですから、いつ何時この車もひっくり返りかねないような、縁起の悪い不安もあるし、ほとんど生きている空はなかったそうです。殊に車が両国橋へさしかかった時、国技館の天・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・腓のところどころがずきずきと痛む。普通の疼痛ではなく、ちょうどこむらが反った時のようである。 自然と身体をもがかずにはいられなくなった。綿のように疲れ果てた身でも、この圧迫にはかなわない。 無意識に輾転反側した。 故郷のことを思・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ 小浅間への登りは思いのほか楽ではあったが、それでも中腹までひといきに登ったら呼吸が苦しくなり、妙に下腹が引きつって、おまけに前頭部が時々ずきずき痛むような気がしたので、しばらく道ばたに腰をおろして休息した。そうしてかくしのキャラメルを・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ 靴下をぬいで、ずきずき疼く踵をおさえた。「やっぱり疲れるんだろうか」「そうですとも! あれだけの間に、わたしたちが会って話の出来た時間が、一体どの位あったとお思いになる? たった百八九十時間ぐらいよ、まる八日ないのよ。ですもの・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫