・・・ 群集を好む動物があり一方にはまた孤独を楽しむ動物があるかと思うと、また一方ではある時期には群集を選ぶが他の時期、特に営巣生殖の時期には群れを離れて自分だけの領地を占領割拠し、それを結婚の予備行為とした上で歌を歌って領域占領のプロパガン・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・とか書いているかと思うと、またアリストテレスの書物を引用して、「豆は生殖器に似ているから、あるいはまた地獄の門のように、ひとりでつがい目が離れて開くから」ともある。何のことかやはりよく分らない。それからまた「宇宙の形をしているから」とか「選・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・ 長さ数センチメートルの長い火花を写真レンズで郭大した像をすりガラスのスクリーンに映じ、その像を濃青色の濾光板を通して、暗黒にならされた目で注視すると、ある場合には光が火花の道に沿うて一方から他方へ流れるように見える。しかし実際はこの火・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・いったい自然はどうしていつもの習慣にそむいてこの植物の生殖器をこんなに見すぼらしくして、そのかわりに呼吸同化の機関たる葉をこれほどまでに飾ったのだろう。植物学者や進化論者に聞いたら何かの学説はあるかもしれないが、それにしても不思議な心持ちが・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・しかしそれらは栄養生殖に不適当であるためにまもなく絶滅したと言って、ここに明らかに「適者生存の理」を述べている。残存し繁栄した種族は自衛の能力あるものか、しからざれば人間の保護によるものであると付け加えている。そして半人半獣の怪物が現存し得・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・抽斎の子は飛蝶と名乗り寄席の高座に上って身振声色をつかい、また大川に舟を浮べて影絵芝居を演じた。わたしは朝寝坊夢楽という落語家の弟子となり夢之助と名乗って前座をつとめ、毎月師匠の持席の変るごとに、引幕を萌黄の大風呂敷に包んで背負って歩いた。・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・どうも芝居の真似などをしたり変な声色を使ったりして厭気のさすものです。その上何ぞというと擲ったり蹴飛したり惨酷な写真を入れるので子供の教育上はなはだ宜しくないからなるべくやりたくないのですが、子供の方ではしきりに行きたかがるので――もっとも・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ 彼女は、人を生かすために、人を殺さねば出来ない六神丸のように、又一人も残らずのプロレタリアがそうであるように、自分の胃の腑を膨らすために、腕や生殖器や神経までも噛み取ったのだ。生きるために自滅してしまったんだ。外に方法がないんだ。・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・但し其これを議論するに声色を温雅にするは上流社会の態度に於て自然に然る可し。我輩に於ても固より其野鄙粗暴を好まず、女性の当然なりと雖も、実際不品行の罪は一毫も恕す可らず、一毫も用捨す可らず。之が為めに男子の怒ることあるも恐るゝに足らず、心を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・聾盲とみに耳目を開きて声色に逢うが如く、一時は心事を顛覆するや必せり。心事顛覆したり、また判断の明識あるべからず。かくの如きはすなわち、辛苦数年、順良の生徒を養育して、一夜の演説、もってその所得を一掃したるものというべし。 ただにこれを・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
出典:青空文庫