・・・精妙ないいものの中から、そのいいところを取り出すにはやはりそれに応ずるだけの精微の仕掛けが必要であると思った。すぐれた頭の能力をもった人間に牛馬のする仕事を課していたような、済まない事をしていたというような気がするのであった。 鉄針と竹・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・複雑な環境の変化に適応せんとする不断の意識的ないし無意識的努力はその環境に対する観察の精微と敏捷を招致し養成するわけである。同時にまた自然の驚異の奥行きと神秘の深さに対する感覚を助長する結果にもなるはずである。自然の神秘とその威力を知ること・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・化学的の分析と合成は次第に精微をきわめて驚くべき複雑な分子や膠質粒が試験管の中で自由にされている。最も複雑な分子と細胞内の微粒との距離ははなはだ近そうに見える。しかしその距離は全く吾人現在の知識で想像し得られないものである。山の両側から掘っ・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・すこぶる精微を極め、文辞また婉宕なり。大いに世の佶屈難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君齢わずかに二十四、五。しかるに学殖の富衍なる、老師宿儒もいまだ及ぶに易からざるところのものあり。まことに畏敬すべきなり。およそ人の文・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・然るに垢抜けのした精美された心持ちで考えると、自分の児は可愛いには違いないが、欠点も仲々ある、どうしても他所の児の方が可い、併し可愛いとなる。これと同じ事で、文学にしがみ付いて、其でなきゃ夜も日も明けぬと云うな、真に文学を愛するもんじゃない・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・しかし、きょう勤労するすべての人に企業整備の大問題が迫っている。税の問題がある。 社会のこういう矛盾と撞着、それをみんなが知っているくせに、いちいちおどろいたり、苦しんだりしないような顔でいるくせになってしまった。しかも心は晴れていない・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・その時ピエールは永年の夢であった整備された研究室の実現も考え、また夫として父親としての家庭に対する愛情から、いくらかの特許独占の方法を思わないでもなかったらしかったが、結局は彼ら夫婦を結んでいるまじり気のない科学的精神に反するものとしてその・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・資本主義社会が西欧で確立した十九世紀に、その基盤としての生産関係を究明して、その矛盾とその合則の発展の過程を、共産主義社会の出現にまで追究した人間精神を、私たちは精美なものとして感じることは不可能だろうか。地上のあらゆる生物のうちで、自分た・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・言論機関としてのジャーナリズムがつよい統制、整備のもとにおかれたのは一九四八年からだったが、その方法は、昔からみると比べものにならず技術的であった。ゴロツキ新聞の排除、用紙配給の是正、購読者の要求への即応という掘割をとおって、戦後の小新聞は・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・日常的にもっともっと利用するものとして考えられなければならないとともに、相当の専門的な研究にも実際役に立つだけに図書館の内容が整備されなければなるまい。 現在のところでは上野の帝国図書館にしろ蔵書の量と種目とでは決して満足と云えないし、・・・ 宮本百合子 「実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良」
出典:青空文庫