・・・まず一番勢力のあるものはなんといっても近代教でしょう。生活教とも言いますがね。」(「生活教」という訳語は当たっていないかもしれません。この原語は Quemoocha です。cha は英吉利語の ism という意味に当たるでしょう。quemo・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・彼はそう云う煙管を日常口にし得る彼自身の勢力が、他の諸侯に比して、優越な所以を悦んだのである。つまり、彼は、加州百万石が金無垢の煙管になって、どこへでも、持って行けるのが、得意だった――と云っても差支えない。 そう云う次第だから、斉広は・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・どうして、この創造的精力の奇怪な作用を、可能視なさる事が出来ましょう。それほど、私が閣下の御留意を請いたいと思う事実には不可思議な性質が加わっているのでございます。ですから、私は以上のお願いを敢て致しました。猶これから書く事も、あるいは冗漫・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・家庭の建立に費す労力と精力とを自分は他に用うべきではなかったのか。 私は自分の心の乱れからお前たちの母上を屡々泣かせたり淋しがらせたりした。またお前たちを没義道に取りあつかった。お前達が少し執念く泣いたりいがんだりする声を聞くと、私は何・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・これらの階級はブルジョアジー以前に勢力をたくましゅうした過去の所産であって、それが来たるべき生活の上に復帰しようとは、誰しも考えぬところであろう。文芸の上に階級意識がそう顕著に働くものではないという理窟は、概念的には成り立つけれども、実際の・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・そうして自己独得の芸術的感興を表現することに全精力を傾倒するところの人だ。もし、現在の作家の中に、例を引いてみるならば、泉鏡花氏のごときがその人ではないだろうか。第二の人は、芸術と自分の実生活との間に、思いをさまよわせずにはいられないたちの・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・この時人が精力を搾って忘れようと勉めた二つの道は、まざまざと眼前に現われて、救いの道はただこの二つぞと、悪夢のごとく強く重く人の胸を圧するのである。六 人はいろいろな名によってこの二つの道を呼んでいる。アポロ、ディオニソスと・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・しかも今日においては、いっさいの発明はじつにいっさいの労力とともにまったく無価値である――資本という不思議な勢力の援助を得ないかぎりは。 時代閉塞の現状はただにそれら個々の問題に止まらないのである。今日我々の父兄は、だいたいにおいて一般・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・植民的精神と新開地的趣味とは、かくて驚くべき勢力を人生に植えつけている。 見よ、ヨーロッパが暗黒時代の深き眠りから醒めて以来、幾十万の勇敢なる風雲児が、いかに男らしき遠征をアメリカアフリカ濠州および我がアジアの大部分に向って試みたかを。・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・自分の反抗的奮闘の精力が、これだけ強堅であるならば、一切迷うことはいらない。三人の若い者を一人減じ自分が二人だけの労働をすれば、何の苦労も心配もいらぬ事だ。今まで文芸などに遊んでおった身で、これが果してできるかと自問した。自分の心は無造作に・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
出典:青空文庫