・・・も濁った水も併せて飲むというような大腹中の人には、馬琴の小説はイヤに偏屈で、隅から隅まで尺度を当ててタチモノ庖丁で裁ちきったようなのが面白くなくも見えましょうが、それはそれとして置いて、馬琴の大手腕大精力と、それから強烈な自己の道義心と混淆・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・ このように非凡の健康と精力とを有して、その寿命を人格の琢磨と事業の完成とに利用しうる人びとにあっては、長寿はもっとも尊貴にしてかつ幸福であるのは、むろんである。 しかも、前にいったごとくに、こうした天稟・素質をうけ、こうした境界・・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・されど、実体の両面たる物質と勢力とが構成し、仮現する千差万別・無量無限の形体にいたっては、常住なものはけっしてない。彼らすでに始めがある。かならず終りがなければならぬ。形成されたものは、かならず破壊されねばならぬ。成長する者は、かならず衰亡・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 斯く非凡の健康と精力とを有して、其寿命を人格の琢磨と事業の完成とに利用し得る人々に在っては、長寿は最も尊貴にして且つ幸福なるは無論である。 而も前に言えるが如く、斯かる天稟・素質を享け、斯かる境界・運命に遇い得る者は、今の社会には・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・当時巌本善治氏の主宰していた女学雑誌は、婦人雑誌ではあったが、然し文学宗教其他種々の方面に渉って、徳富蘇峰氏の国民の友と相対した、一つの大きな勢力であった。北村君を先ず文壇に紹介したのは、この巌本善治氏であった。『厭世詩家と女性』その他のも・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・有り余る程の精力を持った彼は、これまで散々種々なことを経営して来て、何かまだ新規に始めたいとすら思っていた。彼は臥床の上にジッとして、書生や召使の者が起出すのを待っていられなかった。 でも、早く眼が覚めるように成っただけ、年を取ったか、・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・この人のおかげでシラキュースは急にどんどんお金持になり、島中のほかの殖民地に比べて、一ばん勢力のある町になりました。 それらの殖民地の中には、アフリカのカーセイジ人が建てた町もいくつかありました。シラキュースはそのカーセイジ人たちと、い・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・私には、なんにも知らせず、それこそ私の好きなように振舞わせて置いてくれましたが、兄たちは、なかなか、それどころでは無く、きっと、百万以上はあったのでしょう、その遺産と、亡父の政治上の諸勢力とを守るのに、眼に見えぬ努力をしていたにちがいありま・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・醜くあせって全精力つかいはたして、こんなに疲れてしまっているが、けれども、私は選手だ。勝たなければ生きて行けない単純な選手だ。誰か、この見込みの少い選手のために、声援を与える高邁の士はいないか。 おととしあたり、私は私の生涯にプンクトを・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・額の狭い、眼のくぼんだ、口の大きい、いかにも精力的な顔をしていた。風間という勅選議員の甥だそうだが、あてにならない。ほとんど職業的な悪漢である。言う事が、うまい。「チルチルもうそろそろ足を洗ったらどうだ。鶴見画伯のお坊ちゃんが、こんな工・・・ 太宰治 「花火」
出典:青空文庫