・・・ 「そうとも、生理的に、どこか陥落しているんじゃないかしらん」 と言ったものがある。 「生理的と言うよりも性質じゃないかしらん」 「いや、僕はそうは思わん。先生、若い時分、あまりにほしいままなことをしたんじゃないかと思うね」・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・モンテーニュの論文をことごとく点字に写し取った中から、あらゆる思想や、警句や、特徴や、挿話を書き抜き、分類し、整理した後に、さらにこの著者が読んだだろうと思われるあらゆる書物を読んだり読んでもらったりして、その中に見出される典拠や類型を拾い・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・これはたしかにひなと親鳥とではその生理的機能にそれだけの差があることを意味するのではないかと思われる。 鴨羽の雌雄夫婦はおしどり式にいつも互いに一メートル以内ぐらいの間隔を保って遊弋している。一方ではまた白の母鳥と十羽のひなとが別の一群・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・に関する十分の知識を基礎としてそれらの資料の整理をしなければならないことはもちろんであるが、しかし整理は百年の後でも出来る。資料は一日おくれたら永久に失われる。私はこの機会に夏目先生に関するあらゆる隠れた資料が蒐集され記録される事を切望して・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・律動は本来時間的のものであって時間的に週期的な現象がわれわれ人間に生理的および心理的に内在する律動感に共鳴する現象である。空間的のリズムは、これから導出された第二次的のものであって、目が空間を探り歩く運動によってはじめて時間的なリズムに翻訳・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・近ごろになってわれわれはそれを少しばかり整理しみがき上げて、そうしていかめしい学という名をつけたのである。 さて、これらの原始的な世界像構成要素が映画ではどういうふうに置き換えられて代表されているかを考えてみる。 まず「質量」はどう・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・姙娠という生理的の原因もあったかもしれなかった。 桂三郎は静かな落ち着いた青年であった。その気質にはかなり意地の強いところもあるらしく見えたが、それも相互にまだ深い親しみのない私に対する一種の見えと羞恥とから来ているものらしく思われた。・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ わたくしは或日蔵書を整理しながら、露伴先生の『言』中に収められた釣魚の紀行をよみ、また三島政行の『葛西志』を繙いた。これによって、わたくしはむかし小名木川の一支流が砂村を横断して、中川の下流に合していた事を知った。この支流は初め隠坊堀・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・それでも余は他の同級生よりも比較的熱心な英語の研究者であったから、分らないながらも出来得る限りの耳と頭を整理して先生の前へ出た。時には先生の家までも出掛けた。先生の家は先生のフラネルの襯衣と先生の帽子――先生はくしゃくしゃになった中折帽に自・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・成功したというと、その人の遣口が刷新でもなく、改革でもなく、整理でもなくても、その結果が宜いと、唯その結果だけを見て、あの人は成功した、なるほどあの人は偉いということになる。ところが騒動が益大きくなる。そうすると今まで遣ったその人の一切の事・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫