・・・重い苦しい寂寥では無い。今日の空気のように平明な心が、微かながら果もなく流れ動く淋しさである。 隅から隅まで小波も立てずに流れる魂の上に、種々の思いが夏雲のように湧いて来る。真個に――。考えではない、思いである。 歌を詠みたい。けれ・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・の天地、そこには、北国に於て見るあの寂寥の影が何処にも見出せませんでした。そして何処へ行っても、落ち付いた誇りの色――いつまでも、何時までも忘れないというような過去の誇りの色を発見して、私は何ともいわれない懐しさを覚えました。 ・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
・・・ 仮令感傷的だと云う点で非難はされるとしても、彼が深夜、孤り胸を満す寂寥に堪えかねて書いた文字は、自分を動かさずには置かない。心から心へと響いて来るのだ。 自分は、自分の愛する者を一人をも、真に幸福に仕てやる力は持たないのだ。小さい・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・武家の棟梁とその家人との関係が、全国的な武士階級の組織の脊梁であった。そうして初めは、彼らの武力による治安維持の努力が実際に目に見える功績であった。しかし後にはただ特権階級として、伝統の特権によって民衆の上に立っていたのである。しかし民衆運・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・自然の美に酔いては宇宙に磅たる悲哀を感得し、自然の寂寥に泣いては人の世の虚無を想い来世の華麗に憧憬す。胸に残るただ一つは花の下にて春死なんの願いである。西行はかく超越を極めた。しかれども霊的執着は薄弱である。彼の蹈む人道は誠に責任を無視して・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫