・・・ 須利耶さまがお従弟さまに仰っしゃるには、お前もさような慰みの殺生を、もういい加減やめたらどうだと、斯うでございました。 ところが従弟の方が、まるですげなく、やめられないと、ご返事です。(お前はずいぶんむごいやつだ、お前の傷めた・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・「きまってらあ、殺生石だってそうだそうだよ。」「きっと鳥はくちばしを引かれるんだね。」「そうさ。くちばしならきっと磁石にかかるよ。」「楊の木に磁石があるのだろうか。」「磁石だ。」 風がどうっとやって来ました。するとい・・・ 宮沢賢治 「鳥をとるやなぎ」
・・・「この位風があれば殺生石も大丈夫だろう。一つ見て来よう」「お総さん、見ずじまいになっちゃうわ」「いいさ、我まま云って来ないんだもの、来たけりゃ一人で来ればいい」 なほ子は先に立って、先刻大神楽をやっていた店の前から、細いだら・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ それについて自分はどう云う decision を下すかと云うところ迄ゆき、現在の心とその decide されたものとの間にダイナミックな折衝を生じなければ、真実人格を養う力とはならない。あるもののあるのを知るだけでは足りない。知ったそれに・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・重い空気がマグネシュームをたいてとられた写真の面に感じられるが、その雰囲気は率直に殺気立つものとは違った、寧ろ大変大人っぽい、謂わば相方とも腹のなかは心得きっている上での折衝と云う情景である。私は電燈の下で長いことその写真を眺めた。そして、・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・、私は特に興味ふかく思うのであるが、ひところ或る種のプロレタリア文学運動の活動家が人間性というものの理解について陥り勝ちであった二元的見解をひっくりかえしたようなものが、今日まで極めて文壇的な雰囲気、折衝、感情錯綜の中に生活して来ている作家・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・生活がその曲折と悲喜交々の折衝によって、われわれに文学への欲求を起させるのであるし、様々な作品をもつくらせる。成程文学作品が我々の生活に影響する力は非常に大きいが、それは或る一つの文学作品が現実への迫真力の深さによって再び現実の生活を突き動・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・ 既にはっきり予見されているこれらの困難を製作者と観衆とはどのようにのり越え、企業性や統制の方向と折衝してゆくであろうか。今日の社会生活の全面にあらわれている多難性が、ここにも映っていると思われる。最近日本映画の優秀作品として「若い人」・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・佐野さんは親が坊さんにすると云って、例の殺生石の伝説で名高い、源翁禅師を開基としている安穏寺に預けて置くと、お蝶が見初めて、いろいろにして近附いて、最初は容易に聴かなかったのを納得させた。婿を嫌ったのは、佐野さんがあるからの事であった。安穏・・・ 森鴎外 「心中」
・・・「もう殺生だけはやめて下さいよ。この子が生れたら、おやめになると、あれほど固く仰言ったのに、それにまた――」 母が父と争うのは父が猟に出かけるときだけで、その間に坐っていた私はあるとき、「喧嘩もうやめて。」 と云うと、急に父・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫