・・・此辺より見れば女大学は人に無理を責めて却て人をして偽を行わしめ、虚飾虚礼以て家族団欒の実を破るものと言うも不可なきが如し。我輩の所見を以てすれば、家内の交には一切人為の虚を構えずして天然の真に従わんことを欲するものなり。嫁の身を以て見れば舅・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・が、油汗を搾るのは責めては自分の罪を軽め度いという考えからで、羊頭を掲げて狗肉を売る所なら、まア、豚の肉ぐらいにして、人間の口に入れられるものを作え度い、という極く小心な「正直」から刻苦するようになったんだ。翻訳になると、もう一倍輪をかけて・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ この夢があるので、わたくしは多少良心に責められたこともあります。しかしわたくしはあなたに誓います。わたくしはあなたが田舎の夫が妻に要求するような要求をなさることがあろうとは、一度も思ったことはありません。それは田舎の夫が妻に要求する主・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・背中から左の横腹や腰にかけて、あそこやここで更る更る痛んで来る事は地獄で鬼の責めを受けるように、二六時中少しの間断もない。さなくても骨ばかりの痩せた身体に終始痛みが加わるので、僅かの身動きさえならず、苦しいの苦しくないのと、そんなことをいう・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・かれ攻めこれ防ぎおのおの防ぐ事九度、攻むる事九度に及びて全勝負終る。○ベースボールの球 ベースボールにはただ一個の球あるのみ。しかして球は常に防者の手にあり。この球こそこの遊戯の中心となる者にして球の行く処すなわち遊戯の中心なり。球は常・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・みんなは僕だの斉藤君だの行かないので旅行が不成立になると云ってしきりに責めた。武田先生まで何だか変な顔をして僕に行けと云う。僕はほんとうにつらい。明后日までにすっかり決まるのだ。夕方父が帰って炉ばたに居たからぼくは思い切って父にもう一度学校・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・然し、又、あれに攻められるのはやり切れないが」 彼等は、おそい昼飯を至極技巧的な快活さに於て食べた。――彼は、出来るだけ愉快な心持で善後策を講じる準備に、体は動せない代り、能う限り滑稽な話題で彼女を笑わせようとした。彼女は良人の仕うちが・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ジャーナリズムは金攻めの岩、自由攻め岩、民主攻めの岩々をよけながら難破しないで前進してゆかなければならない。ジャーナリストの眼には、ちらちら横に動くはやさのほかに、遠くのものを見とおせる航海者の視力と、ローリング・ピッチングにたえる脚の力が・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・ソフィヤ夫人は、子供等に対する家庭の父親の義務としてトルストイを責め、その考えに反対してアンドレイを先頭に立てた一群の息子たちは、当然息子に分けられるべき財産を、トルストイのとりまき共に横領されまいとする息子の権利の上に立って。 この諍・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ ところがその年の暮れに、急に隣国の兵が攻め寄せて来た。王様は早速、適当な兵を送り出して置いて、いつもの通り瞬く間に勝って来るのを、王宮の暖いお寝間の中で待っておられた。 けれども、どうしたのか、兵は、却って隣国の者に追いまくられ、・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫