・・・飲ませろ。かかは、いないのか。かかのお酌で一ぱい飲ませろ」 私は立ち上り、「よし。じゃ、こっちへ来い」 つまらない思いであった。 私は彼を奥の書斎に案内した。「散らかっているぜ」「いや、かまわない。文学者の部屋という・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・実に可哀い子には旅をさせろである。 小さい銀行員はまた銀行に通い始めた。経験が出来たので、段々上の役に進む。妻を迎える。その家の食堂には、漫遊の記念品が飾ってある。小役人の家の食堂とは思われない。主人チルナウエルは客にこんな事を言う。「・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・一昨年来急に世界的に有名になってから新聞雑誌記者は勿論、画家彫刻家までが彼の門に押しよせて、肖像を描かせろ胸像を作らしてくれとせがむ。講義をすまして廊下へ出ると学生が押しかけて質問をする。宅へ帰ると世界中の学者や素人から色々の質問や註文の手・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ ヴァイオリンの音の、起伏するのを受けて、山彦の答えるように、かすかな、セロのような音が響いて来る。それが消えて行くのを、追い縋りでもするように、またヴァイオリンの高音が響いて来る。 このかすかな伴奏の音が、別れた後の、未来に残る二・・・ 寺田寅彦 「秋の歌」
・・・ ヴァイオリンの音の、起伏するのを受けて、山彦の答えるように、かすかな、セロのような音が響いて来る。それが消えて行くのを、追い縋りでもするように、またヴァイオリンの高音が響いて来る。 このかすかな伴奏の音が、別れた後の、未来に残る二・・・ 寺田寅彦 「秋の歌」
・・・日本の歌を聞かせろというので、仕方なしにピアノで君が代のメロディだけ弾いたら、誰かが大変悲しい感じがするではないかと云った。 チンネフ君と一つの室に寝た。室には電燈も何もなかった。蝋燭を消したら真暗になった。ひしひしと夜寒が身に沁みた。・・・ 寺田寅彦 「異郷」
・・・ 四 ストウピンのセロの演奏を聞いた。近来にない面白い音楽を聞いた。 われわれ素人の楽器を弄するのは、云わば、楽譜の中から切れ切れの音を拾い出しては楽器にこすりつけ、たたきつけているようなもので、これは問・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 四 ストウピンのセロの演奏を聞いた。近来にない面白い音楽を聞いた。 われわれ素人の楽器を弄するのは、云わば、楽譜の中から切れ切れの音を拾い出しては楽器にこすりつけ、たたきつけているようなもので、これは問・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・この驚くべき聴感の能力のおかげで、われわれは喧騒の中に会話を取りかわす事ができ、管弦楽の中からセロやクラリネットや任意の楽器の音を拾い出す事ができる。 これに反して目のほうでは白色の中から赤や緑を抜き出す事が不可能であり、画面から汚点を・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・この驚くべき聴感の能力のおかげで、われわれは喧騒の中に会話を取りかわす事ができ、管弦楽の中からセロやクラリネットや任意の楽器の音を拾い出す事ができる。 これに反して目のほうでは白色の中から赤や緑を抜き出す事が不可能であり、画面から汚点を・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
出典:青空文庫