・・・ 呑助が酒を取り上げられたのと同じになるのをつい此間から草花でまぎらす事を気がついた。 五六本ある西洋葵の世話だのコスモスとダーリアの花を数えたりして居る。 早りっ気で思い立つと足元から火の燃えだした様にせかせか仕だす癖が有るの・・・ 宮本百合子 「秋毛」
・・・窓の枠の上には赤い草花が二鉢置いてある。背後には小さい帷が垂れてある。 ツァウォツキイはすぐに女房を見附けた。それから戸口の戸を叩いた。 戸が開いて、閾の上に小さい娘が出た。年は十六ぐらいである。 ツォウォツキイにはそれが自分の・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・机の上の果物、花瓶、草花。あるいは庭に咲く日向葵、日夜我らの親しむ親や子供の顔。あるいは我らが散歩の途上常に見慣れた景色。あるいは我々人間の持っているこの肉体。――すべて我々に最も近い存在物が、彼らに対して、「そこに在ることの不思議さ」を、・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫