・・・ 吉川英治、林房雄、尾崎士郎、榊山潤の諸氏によって、作家の戦線ルポルタージュは色どり華やかである。綜合雑誌の読者はこれらの作家によって書かれた報告的な文章を立てつづけて幾つかよまされているのであるが、果してこれ等のルポルタージュがニュー・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・彼の周囲には、ぐちをいいいいプカプカたかいタバコをすっている男たちがおり、彼のひらく雑誌は、抽象的論議だらけの旧型綜合雑誌なのでしょう。そして、最もおどろくべきことは、政治の面で、内閣のからやくそくとすっぽかしに対して、わたしたちの抗議がど・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・これまでいい意味での女らしさの範疇からもあふれていた、現実へのつよい倦むことない探求心、そのことから必然されて来る科学的な綜合的な事物の見かたと判断、生活に一定の方向を求めてゆく感情の思意ある一貫性などが、強靭な生活の腱とならなければ、とて・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・リアリズムは、人間の生きる社会とその階級の歴史と個人の複雑な発展の諸関係を、社会の歴史と個人の諸要因の綜合的な動きそのものの中で現実的に掴もうとする本質によって、文学の最も強固な手法である。リアリズムが人間の芸術表現にとって大地のような性質・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・呶鳴りながら、野蛮な顔の相好を二目と見られぬ有様に引歪め、「貴様、宮本からもらって読んでるじゃないかッ」 ドズン! 何というこれは愚かな嘘であろう。「知らない、そんなもの」「知らないィ?」「知らない」「人をォ……・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・見てくれ、折角荒々しいような執念いような、気味悪い俺の相好も、半時彼方で香の煙をかいで来ると、すっかりふやけて間のびがして仕舞った。どうだ、少しは俺らしくなったか?ヴィンダー上帝の奴、手に負えない狡猾者だ。俺達やカラは、地体ああ云ういや・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・認識とは悟性と感性との綜合体なるは勿論であるが、その客体を認識する認識能力を構成した悟性と感性が、物自体へ躍り込む主観なるものの展発に際し、よりいずれが強く感覚触発としての力学的形式をとるかと云うことを考えるのが、新感覚の新なる基礎概念を説・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・このような談笑の話と、先日高田が来たときの話とを綜合してみた彼の経歴は、二十一歳の青年にしては複雑であった。中学は首席で柔道は初段、数学の検定を四年のときにとった彼は、すぐまた一高の理科に入学した。二年のとき数学上の意見の違いで教師と争い退・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ 十五世紀から十七世紀へかけての航海者の報告を総合すれば、サハラの沙漠から南へ広がっているニグロ・アフリカに、そのころなお、調和的に立派に形成された文化が満開の美しさを見せていたということは確実なのである。ではその文化の華はどうなったか・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・したがって思想傾向も、一切を取り入れて統一しようという無傾向の傾向であって、好くいえば総合的、悪く言えば混淆的である。その主張を一語でいうと、神儒仏の三者は同一の真理を示している、一心すなわち神すなわち道、三にして一、一にして三である、とい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫