・・・何故なら私の記憶の前には、中川一政氏によって装幀された厚い一冊の本と、ゴーリキイの如何にも彼らしい「なに、結構読める」と云った声とがまざまざと結びついて生きていて、その思い出はゴーリキイという一人の大きい作家の生涯の過程を私に会得させるため・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ 図解が昨今は大変趣向にかなうらしくて、この文章にも図入りで新構成の案が出ている中に、放送文化研究所というものが想定されていた。そこでいろいろ研究するのだろうが、それにつれて現在までの放送局の研究的な仕事のうちに、聴取者からの反響は、ど・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
・・・ 私は賢しこい読者に多くを云わず、或る方々は全集の装幀が華やかだから購読なさるであろうバルザックの作品の中から、一つの文句をとり出そうと思います。バルザックはこういう意味を結論した。「民衆と女とは、吾々の平和のために圧えておかなければな・・・ 宮本百合子 「私も一人の女として」
・・・その裏に太田正雄さん、文壇での通名木下杢太郎さんがこの本の装釘をして下すったと云うことわりがきがドイツ文で書き入れてあるが、あれも文芸委員会の文句を入れるに極まってから、その紙の裏が白くなるので、それを避けるために、思い立って入れた。それは・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・ この間、彼のこの異常な果断のために戦死したフランスの壮丁は、百七十万人を数えられた。国内には廃兵が充満した。祷りの声が各戸の入口から聞えて来た。行人の喪章は到る処に見受けられた。しかし、ナポレオンは、まだ密かにロシアを遠征する機会を狙・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫