・・・ 往来より突抜けて物置の後の園生まで、土間の通庭になりおりて、その半ばに飲井戸あり。井戸に推並びて勝手あり、横に二個の竈を並べつ。背後に三段ばかり棚を釣りて、ここに鍋、釜、擂鉢など、勝手道具を載せ置けり。廁は井戸に列してそのあわい遠から・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・でもか、生垣へだてたる立葵の二株、おたがい、高い、高い、ときそって伸びて、伸びて、ひょろひょろ、いじけた花の二、三輪、あかき色の華美を誇りし昔わすれ顔、黒くしなびた花弁の皺もかなしく、「九天たかき神の園生、われは草鞋のままにてあがりこみ、た・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・C女史の「感情の園生に飛びこんだ」 十年の間C女史の身辺で、「あたかも静かな谷間の流れのようであった」淑貞はC女史にとって「天使のような慰め」である。中国を心から愛し、評価するC女史は、淑貞を、教養深いが純粋な中国の女性として育てあげて・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫