・・・しかしゆうべまであった花はどうしたろう、生花も造花もなんにも一つもないよ。何やら盛物もあったがそれも見えない。きっと乞食が取ったか、この近辺の子が持って往たのだろう。これだから日本は困るというのだ。社会の公徳というものが少しも行われて居らぬ・・・ 正岡子規 「墓」
・・・その要領は人類の居住すべき世界の土地は一定である、又その食料品は等差級数的に増加するだけである、然るに人口は等比級数的に多くなる。則ち人類の食料はだんだん不足になる。人類の食料と云えば蓋し動物植物鉱物の三種を出でない。そのうち鉱物では水と食・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・菊の花の造花や、薄でこしらえた赤い耳の木菟を売るみやげやが、団子坂上からやっちゃば通りまでできた。 菊人形が国技館で開かれるようになってからは、見にゆく人の層も変ったらしいけれども、団子坂の菊人形と云われたことは、上野へ文展を見にゆく種・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・異様に白く、或は金焔色に鱗片が燦めき、厚手に装飾的な感じがひろ子に支那の瑪瑙や玉の造花を連想させた。「なあ、ヘェ、あてらうちにこんなん五匹いるわ」 それは普通の出目金で、真黒なのが、自分の黒さに間誤付いたように間を元気に動き廻ってい・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・ヨーロッパの自然は、ギリシャ時代、ルネッサンスにあってはアポロだのジュピターだのという伝説の神々の仮名で重々しく擬人化され、美化され、中世紀は、たとえそれは栄光的であるとしても全く人為的な、神学の造化物として描かれた。あのように科学的天稟ゆ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 近代工業が勃興して、大工場が増加し、そこに働く労働者とその家族の数が、この世界に殖えて来るにつれて、文学における自然はこれまでにない相貌によって描かれるようになって来た。これまでの文学とその作者の日常生活の中では目に入れられなかった大・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・そして、それよりもっと生のままの身近い現実として、今日の私たちの周囲には少年犯罪の増加の事実が世人の注意をひいているのである。 この、ジャン少年の手記は、トルストイの文学に親しみぶかい日本の多くの人々の心に、少なからず刺戟を与えるだ・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・機械器具製造では男子二一パーセント増しに対して女子三〇パーセントという大幅の増加がある。精巧工業では男子一六パーセント増に対して女子六一パーセント増、特に造船業・運搬用具製造業などでは男子三五パーセント増に対して女子一〇七パーセント増。二年・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・ 生産拡張の五ヵ年計画は、ソヴェト生産を十倍、六十倍という凄い率で増加させるとともに、工業では生産の九二パーセントを、農業では六五パーセントを社会化する。これは社会生活全線の社会主義的前進を意味する。五ヵ年計画がはじまって、第二年目の一・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 農村で集団農場がどんなに殖えたかは、去年の穀物総収穫が、一昨年の七千百七十万トンに比べて八千六百六十万トンに増加したことで明らかだ。 発電所の新設工場は、ドネープル河をはじめ所々方々で行われている。 鉱山、油田に於ける労働から・・・ 宮本百合子 「なぜソヴェト同盟に失業がないか?」
出典:青空文庫