・・・に言い黒めるという俗諺が、この子だけにはあたりまえなのです。 高い木のてっぺんで百舌鳥が鳴いているのを見ると、六蔵は口をあんぐりあけて、じっとながめています。そして百舌鳥の飛び立ってゆくあとを茫然と見送るさまは、すこぶる妙で、この子供に・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・窮すれば通ず、という俗言をさえ、私は苦笑しながら呟いたものであった。もはや、私は新進作家である。誰ひとり疑うひとがなかった。ときどきは、私自身でさえ疑わなかった。 私は部屋の机のうえに原稿用紙をひろげて、「初恋の記」と題目をおおきく書き・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・これを要するに、今の紳士も学者も不学者も、全体の言行の高尚なるにかかわらず、品行の一点においては、不釣合に下等なる者多くして、俗言これを評すれば、御座に出されぬ下郎と称して可なるが如し。花柳の間に奔々して青楼の酒に酔い、別荘妾宅の会宴に出入・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫