・・・我が輩かつていえることあり、方今政談の喋々をただちに制止せんとするは、些少の水をもって火に灌ぐが如し、大火消防の法は、水を灌ぐよりも、その燃焼の材料を除くに若かずと。けだし学者のために安身の地をつくりてその政談に走るをとどむるは、また燃料を・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・竜動に巍々たる大廈石室なり、その市街に来往する肥馬軽車なり、公園の壮麗、寺院の宏大、これを作りてこれを維持するその費用の一部分は、遠く野蛮未開の国土より来りしものならん。ただに遠国のみならず、現に両国境を接する日耳曼と仏蘭西との戦争において・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・これを喩えば、大廈高楼の盛宴に山海の珍味を列ね、酒池肉林の豪、糸竹管絃の興、善尽し美尽して客を饗応するその中に、主人は独り袒裼裸体なるが如し。客たる者は礼の厚きを以てこの家に重きを置くべきや。饗礼は鄭重にして謝すべきに似たれども、何分にも主・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・婦人の地位を高尚にするの新案は、あたかも我が国未曾有の家屋を新築するものにして、我輩固より意見を同じうするのみならず、敢えて発起者中の一部分を以て自ら居る者なれども、満目焔々たる大火の消防に忙わしくして、なお未だ新築に遑あらず。故に今後は、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・――その時はツルゲーネフに非常な尊敬をもってた時だから、ああいう大家の苦心の作を、私共の手にかけて滅茶々々にして了うのは相済まん訳だ、だから、とても精神は伝える事が出来んとしても、せめて形なと、原形のまま日本へ移したら、露語を読めぬ人も幾分・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・「それに第一流の大家と来ている」と、オオビュルナンは口の内で詞に出して己を嘲った。 自動車が止まった。オオビュルナンは技手に待っていろと云って置いて、しずかに車を下りてロメエヌ町へ曲がった。小さい、寂しい横町である。少数の職業組合が旧教・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・画家の生活全体が困難になって、ごく少数の大家――その人の絵をもっていれば、やがて値が出て金になるという、家屋敷を買うような意味で買われる大家を除いては、新進画家の生活はまったく苦しい、それは出版事情の最悪な今の文学にも、また音楽にもいえる。・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・この態度はともかく日本の文学的大家としてなかなか注目に価する。ごねかたが本質においてばくちうちの親分と同じである。形式並に仁義の問題にかかっている。文学の本質の問題ではない。どうせ老仙国へ旅行するなら、幸田露伴のように飄々として居ればよい。・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
・・・外米の輸入。滞貨放出。ガスの制限もゆるやかになりました。そして冬は石炭も手に入るであろう。 ここに、わたしたちを堪えがたくする現実の矛盾がある。理性のある社会の生活であると思うことのできないあからさまな不合理が強いられている。 社会・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
枯草のひしめき合うこの高原に次第次第に落ちかかる大火輪のとどろきはまことにおかすべからざるみ力と威厳をもって居る。 燃えにもえ輝きに輝いた大火輪はその威と美とに世のすべてのものをおおいながらしずしずと凱歌を奏しながらこ・・・ 宮本百合子 「小鳥の如き我は」
出典:青空文庫