・・・環のまん中に名高い、ヘルマン大佐がいるんだ。人間じゃないよ。僕たちの方のだよ。ヘルマン大佐はまっすぐに立って腕を組んでじろじろあたりをめぐっているものを見ているねえ、そして僕たちの眼の色で卑怯だったものをすぐ見わけるんだ。そして『こら、・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・今日は一見大差なく目前の困難に圧せられているごとくではあるが、それどころか、勤労階級の男女は一層ひどい封建性の下で家庭生活を営んでいるのであるが、新たな歴史の担い手である勤労階級の社会関係の必然から、見とおしとしては結局、プロレタリアートの・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・共和党と根本においては大差のない民主党が、トルーマンを当選させるためには、その政策をかけひきなしに民主的人民の見解を代表しようとする進歩党の主張に近づけなければならなかった。タフト・ハートレー法に賛成し、非アメリカ委員会のゆきすぎの活動を放・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・となりに居た海軍大佐金沢午後七時〇五分着同三十分信越線のりかえのとき、急行券を買う、そのとき私共と同盟し自分は私共の切符を買ってくれるから、私共はその人の荷物を持ち、席をとることとする。金沢迄無事に行くことは行ったが、駅に下ると、金沢の十五・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 実に屡々、これと大差ない奇怪な感情の陶酔に貫かれながら、どこにも統一のない彼女の生活は、だんだん彼女の年と、境遇とに比べて、有り得べからざる陰気さの中に、深入りして行った。 下手な、曲ったような字で、心が唸りを立てるほど漲って来る・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ しかしながら、そういう具体的な細部がそれぞれにちがっているほど、日本の働く女性として社会にもっている条件に大差があるのだろうか。このところは私たちを深く考えさせる点だと思う。 実際の条件は同じによくないのだが、勤め先が世間で通って・・・ 宮本百合子 「働く婦人の歌声」
・・・今予に耳を借す公衆は、不思議にも柵草紙の時代に比して大差はない。予は始から多く聴者を持っては居なかった。ただ昔と今との相違は文壇の外に居るので、新聞紙で名を弄ばれる憂が少いだけだ。荘子に虚舟の譬がある。今の予は何を言っても、文壇の地位を争う・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫