・・・ 二宮尊徳 わたしは小学校の読本の中に二宮尊徳の少年時代の大書してあったのを覚えている。貧家に人となった尊徳は昼は農作の手伝いをしたり、夜は草鞋を造ったり、大人のように働きながら、健気にも独学をつづけて行ったらしい。これ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・この点に於て、書物と対蹠的の感じがします。 この理由は、個人の研究や、創造はいかに貴くとも幾十年の間も、その光輝を失わぬものは少ないけれど、これに反し、集団の行動は、その動向を知るだけでも時代が分るためです。故にその時代を見ようと思えば・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・故に、一つの主義が勃興すれば、それと対蹠的な主義が生起する。かくして、その相剋の間に真理は見出されるのを常とします。しかし、真の殉教者は、そのいずれに於ても、狂信的なるものである。即ち新社会を建設する上に於て、貴い犠牲者でもあります。 ・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・ ところが、南禅寺でのその対局をすませていったん大阪へ引きあげた坂田は、それから一月余りのち、再び京都へ出て来て、昭和の大棋戦と喧伝された対木村、花田の二局のうち、残る一局の対花田戦の対局を天龍寺の大書院で開始した。私は坂田はもう出て来ま・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・この稀な大暑を忘れないため、流しつづけた熱い汗を縁側の前の秋草にでも寄せて、寝言なりと書きつけようと思う心持をもその時に引き出された。ことしのような年もめずらしい。わたしの住む町のあたりでは秋をも待たないで枯れて行った草も多い。坂の降り口に・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・何から何まで対蹠的な存在だからな。一方は下賤から身を起して、人品あがらず、それこそ猿面の痩せた小男で、学問も何も無くて、そのくせ豪放絢爛たる建築美術を興して桃山時代の栄華を現出させた人だが、一方はかなり裕福の家から出て、かっぷくも堂々たる美・・・ 太宰治 「庭」
・・・難解「太初に言あり。言は神と偕にあり。言は神なりき。この言は太初に神とともに在り。万の物これに由りて成り、成りたる物に一つとして之によらで成りたるはなし。之に生命あり。この生命は人の光なりき。光は暗黒に照る。而して暗黒は之を・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・将来の有声映画製作者にとってはこの二つの対蹠的な現象の分析的研究が必要となるであろう。この二つのものはしかし必ずしも互いに相容れないものではないように私には思われるのである。 三「青い天使」と同日に「モンテカ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 太陽が動かないで地球が運行しているという事、地球が球形で対蹠点の住民が逆さにぶら下がっているという事、こういう事がいかに当時の常識に反していたかは想像するに難くない。 非ユークリッド幾何学の出発点がいかに常識的におかしく思われても・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・ 今からでも大書店で十六ミリフィルムを売り出してもよくはないか。そうして小さな試写室を設けて客足をひくのも一案ではないかと思われるのである。近ごろ写真ばかりの本のはやるのはもうこの方向への第一歩とも見られる。 読みたい本、読まなけれ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
出典:青空文庫