・・・を書いたりしていた津田真道やその頃大いに活動していた中江兆民などとは、人生の見かたの方向に於ては対蹠的な立場に立つようになったのであった。明治二十年前後の一つのリアクシォンの時代は明治初年の啓蒙家たちの思想の進路に極めて微妙に作用しているの・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・が『文芸戦線』の文学的傾向とは全く対蹠的なキュービズムやダダイズム、構成派の影響を強く受けて、それを独自なよりどころとしようとしたことも充分うなずける。 当時「新感覚派」はプロレタリア文学に不満を持つ広い範囲の知識人、文学愛好者の支持を・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・自身がいわばすでに功成り名をとげた人々であるそれら大多数の婦人たちは、政治的に、すなわち客観的に現実的に社会現象を判断し対処してゆく能力は欠いていて、事大的な追随を政治的な態度と思いあやまって、結果としてはかえって、時局を漫画化する登場人物・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・雁金八郎という、小学校をでたばかりであるが発明についての才能をもった男が、久内と対蹠的人物として「紋章」にでてくる。その雁金の存在と醤油製造、乾物製造についての発明の過程や、久内の父である山下博士の雁金に対する学閥を利用しての資本主義的悪策・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・財界の特需景気と警察予備隊景気、戦争気分をそそるレッド・パージとそれに対蹠する戦犯一万九百人の解放。われわれ日本の人民は、事実をどう語っていいのか、不安におかれはじめた。 平和の問題こそ、いまの日本の運命にとって、中心課題である。みんな・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・と引き合され、これらの二つの作品と、二人の作者の態度が全く対蹠的であることで目立つというのは尤もであろう。「贋金つくり」において作者の興味をとらえているのは、人間性の時代的なこわれかたとその各破片のままの閃きの姿である。「チボー家の人々」を・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・ばかりのロシアの富裕な貴公子で、天性優美と不決断とを持った西欧主義者として当時ペテルブルグの華やかな社交界に余暇の多い日々を送っていたればこそ、舞台以外のヴィアルドオ夫人と親しくする機会をもち、彼とは対蹠的であったらしい夫人の溌剌とした性格・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 四 全然対蹠的な主題を扱った小説として同じ『中央公論』に同志細田民樹の「裏切者」がある。今日「プロヴォカートル」という言葉は逆宣伝的な意味にでも通俗化され、新語辞典に出て来る文字となった。プロレタリア作家・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・とりいそいでこしらえたらしい紙の広告で「オリンピックにそなえよ!」と上の方に横書きされ、下に「速成ガイド資格準備、速成オリンピック用会話教授」と大書されたわきに、それぞれ赤インクで線がひいてある。二三日前の雨のせいで、赤インクは侘しく流れ滲・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・万葉とは対蹠的な罪業や来世の観念に貫かれた王朝の精神というものを、万葉とともに、抽象的な情熱として愛するということは、殆ど理解しがたい迄に困難である。 このように相反する時代精神を享受する情熱が、何故に芭蕉の芸術的精神を肯けないのであろ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫