・・・ 九月二十五日頃から毎日新聞にもとのアメリカ駐日大使グルーの回想記がのりました。その中でグルーは一九三三年頃の満州事変にふれこういっています。日本人ほど自分をだますのがうまい国民はない、日本人は戦争が悪いとは思っていない、と。私はその記・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・智者大師の滅後に、隋の煬帝が立てたという寺である。 寺でも主簿のご参詣だというので、おろそかにはしない。道翹という僧が出迎えて、閭を客間に案内した。さて茶菓の饗応が済むと、閭が問うた。「当寺に豊干という僧がおられましたか」 道翹が答・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・諺に大師は弘法に奪われたとか云うようなわけで、ファウストと云えばギョオテのファウストとなっているから、ことわるまでもないと考えた。そしてそのままにして置いた。 さて太田さんの事を言ったから、ついでに話してしまうが、太田さんは印行本の扉の・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・夢を見ているように美しい、ハムレット太子の故郷、ヘルジンギヨオルから、スウェエデンの海岸まで、さっぱりした、住心地の好さそうな田舎家が、帯のように続いていて、それが田畑の緑に埋もれて、夢を見るように、海に覗いている。雨を催している日の空気は・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・宮廷には千人の女御、七人の后が国王に侍していたが、右の女御はその中から選び出されて、みかどの寵愛を一身に集め、ついに太子を身ごもるに至った。そのゆえにまたこの女御は、后たち九百九十九人の憎悪を一身に集めた。あらゆる排斥運動や呪詛が女御の上に・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫