・・・しかし、現実の問題として、一九四六年以来、いくたりかのびて来ている労働者作家、戯曲家を真に人民の文学者にまで大成させ、さらに多くの若い作家を育ててゆくためには、こんにちの段階でいわれているすべての民主作家の活動を、率直に公平に評価する必要が・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・ これは、明治八年いよいよ書籍館が独立して旧大学内大成殿に仮館を定め、九年、毎日「午前第九時ヨリ午後第十時ニ至ルマデ内外人ノ覧閲ヲ許シ覧閲料ヲ収メス」と云う規則が出来てから編輯されたらしい。そして、「明治以前ノ著訳出版ニ係ルノ書名及ビ海・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・、祖父は明治八年に「泰西史鑑」というものを独・物的爾著から重訳して出している。 いずれも当時の進歩的学者であったし、年輩も既に四十歳を越した人々がそれだけ心を合わせて兎に角一つの啓蒙雑誌を発刊したところ、何とも云えぬ明治というものの若々・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・とか種々の委員会への分散的吸収にまかせざるを得なくなって、この夏、新体制の声とともに、婦選獲得同盟は十八年の苦闘の歴史を閉じて解消してしまったのであった。 婦選の動きが日本にあってはこのように見るも痛々しい浮沈をくりかえして、公民権さえ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・日本の支配権力は自分の地位のため、現体制を守る。〔三四字伏字〕、全面的な攻撃を加える。社会的経済構成としては違った二つの社会を維持するために同一の手段がとられることから、一寸見るとまどわされて、歴史的にも階級的にも全くちがう本質を同じ物に見・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・作品の題名にも現れている作者の体勢が、人々をその内容に向っての興味、期待にひきつけたのであったと思う。生活の在りように対する関心では、この作品と読者の良心とが同一面に顔を合わせているかのようであって実は決してそうでないものが、「生活の探求」・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・んだ人は、誰でもこの作品のさっぱりとして、しかも人間らしいつよさにこころよく感銘されるのですが、この小説も『新日本文学』の収穫として、まじめに検討し、この作者の勤労者として、そして小説を書く人としての大成を期待しなければならないと思います。・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・べき一個人としての品位と威厳とを身につけていないことを外国に向って愧じるならば、それは、現代日本の多数の人々を、明治以来真に人格的尊厳というものが、どういうものであるかをさえ知らさないように導いて来た体制を、今なお明瞭に判断しつくし得ていな・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・ 並べて見ているだけでよろこばしい亢奮を覚えるというような工合で、国民文庫刊行会で出版した泰西名著文庫をよみ、同じ第二回の分でジャン・クリストフなども読んだ。手のひらと眼玉がそれらの本に吸いつくという感じで、全心を傾倒した。 五十銭・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・ 動坂の上にたって今日東の方を眺めると、坦々たる田端への大通りの彼方にいかにも近代都市らしい大陸橋が見え、右手には道灌山の茂みの前に大成中学校の建物が見える。それにつづいて上野の森がある。 焼けなかった頃の動坂は、こまかい店のびっし・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
出典:青空文庫