・・・たとえば第一の部分がある旋律によって表わされた一つの主題であるとすれば、第二の部分はこれと照応しまた対比さるべきものであり、これに次いで来る第三すなわち終局部では再び前の主題が繰り返される。またソナタ形式ならば、第一主題、第二主題の次にいわ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・空気のいささかな動揺にも、対比、均斉、調和、平衡等の美的法則を破らないよう、注意が隅々まで行き渡っていた。しかもその美的法則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、非常に緊張して戦いていた。例えばちょっとした調・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・おまけに堆肥小屋の裏の二きれの雲は立派に光っていますし、それにちかくの空ではひばりがまるで砂糖水のようにふるえて、すきとおった空気いっぱいやっているのです。もう誰だって胸中からもくもく湧いてくるうれしさに笑い出さないでいられるでしょうか。そ・・・ 宮沢賢治 「イーハトーボ農学校の春」
・・・信州地方の風景的生活的特色、東京の裏町の生活気分を、対比してそれぞれを特徴において描こうとしているところ、又、主人公おふみの生きる姿の推移をその雰囲気で掴み、そこから描き出して行こうとしているところ、なかなか努力である。カメラのつかいかたを・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・通州の事件について書いている尾崎士郎氏と山本実彦氏の文章の対比はこの点について教えるところがある。山本氏が持っているものは、どちらかと云えば政治家風な通であって、新しい内容での客観的知識、科学的知識ではない。それでも、まだ素朴な感傷でだけ結・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ロンドンに暮しパリを見、ベルリンの病的な印象などとソヴェト生活の現実とを生々しい対比で生きて、そのことから、人類が、幸福を求めて進んで来た歴史の前途に社会主義を確信するようになったのだった。一九二九年の十二月、ヨーロッパの諸国からソヴェトへ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・一九二八年の春の終りに書いたモスクワ印象記では、まだ階級としてのプロレタリアートの勝利の意味を把握していなかったわたしが三〇年には、明瞭にその観点に立って書いていることも、二篇を対比してみて、興味がある。「ロンドン一九二九年」も一九二九・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・漱石のむきな夫婦げんか、男と女との交渉の見かたとの対比。○ 夜、寿江子、和服を着て来るや否やしめつけない帯がずるずるになったと云って、バラさんに直して貰っている。 一月○日 十日に入営する隆ちゃんより来信。点呼のとき青年団員・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・などが世間の注目をひき、文章の古典復興物語調流行がきざしかけた頃、なにかの雑誌で、谷崎と志賀との文章を対比解剖し、二人の文章にあらわれている名詞、動詞の多少、形容詞、副詞の性質を分析し、志賀直哉を客観的描写の作家とし、谷崎潤一郎の最近書く物・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・レオナルド・ダ・ヴィンチの生きかたさえ、この本の中では、ミケルアンジェロの精神との対比で見られているために、機微にふれたその歴史への角度を浮き上らされているのである。 更に、著者はルネサンスという時代と人とに関して書かれている主要な著作・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
出典:青空文庫