・・・ 次の年の寒い時分、大阪に『戦旗』の講演会があって徳永直、武田麟太郎、黒島伝治、窪川稲子その他の人々が東京駅から夜汽車で立った。私は次の日出かけることになっていてステーションまで皆を送りに行ったら、丁度前の日保釈で出たばかりの小林多喜二・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
十一月号の『中央公論』に「杉垣」という短篇を書いた。その評の一つとして武田麟太郎氏の月評が『読売新聞』に出ているのを読んだ。「勤め人夫婦が激動する時代の波濤の中でいかに理性的に生くべきかを追究する次第を叙し」「各人物の・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ 作家武田麟太郎氏は、日本文学の庶民性を主張しつつある作家である。日本の文学は庶民の生活の中から生れたものであるとし、現代作家の任務は現代の庶民の生活にとけ込んでその朝夕のいとなみとその涙と笑いとをあるがままに描き徹することに於て庶民の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・数年間、新しき文学と作家の社会性拡大のために先頭に立っていたプロレタリア作家たちが、続々とあとへすさって来て、林氏のように自身の文学の本質を我から切々と抹殺し、或は西鶴を見直して、散文精神を唱え出した武田麟太郎氏のように一般人間性、性格、現・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・一月三十一日の朝日新聞は三輪田元道氏、山脇女学校教師竹田菊子氏、警視庁保安課長国監氏等の意見をのせている。等しくレビューの男役をする女優、例えば水ノ江タキ子その他に若い女学生が夢中になって、その真似をして髪を切るとか、何か贈り物をしたいため・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・この二人の作家の時代的な本質については、後にやや詳しく触れることとして、当時のこのような心理は、他の角度に於て武田麟太郎の市井小説の提案を生む動機となった。『人民文庫』による、武田麟太郎は、西鶴が市井生活のリアルな描写をとおして十八世紀日本・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・の解散は、武田麟太郎氏としては三月号をちゃんと終刊号として行いたいらしかった。人民社中の日暦の同人、荒木巍氏など先頭に立って「もしやられたら僕らの生活を保障してくれるか」と武田に迫った由。そんなこと出来るものか、じゃ解散しろ、それで急に解散・・・ 宮本百合子 「一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果」
・・・単純な適応を積極性と呼ばないとすれば、自身の芸術境に忠実であろうとする作家、例えば川端康成というような作家の本年度の芸術が、ゆたかな社会性に充たされていただろうか。武田麟太郎の作品が社会性において一歩をすすめ得ていたであろうか。 婦人作・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・社会主義的リアリズムのこのように歪曲された解釈は、一般にさまざまな形でのリアリズム論争をまき起した。武田麟太郎の風俗描写的リアリズムをそのはじめとして。――すべてのリアリズム論争の特徴は、階級性の抹殺であった。佐多稲子、江口渙、私等は以・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ プロレタリア文学の着実な日常性、大衆性というものの本質は、小林秀雄氏等によっていわれている大衆性とちがい、武田麟太郎氏がいう日常性と違ったものであり、プロレタリア作家は自身の生活と文学とでその相互をはっきりと描き出してゆかねばならない・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
出典:青空文庫