・・・やはり栄えた筆頭は芸者に止めをさすのかと呟いた途端に、私は今宮の十銭芸者の話を聯想したが、同時にその話を教えてくれた「ダイス」のマダムのことも想い出された。「ダイス」は清水町にあったスタンド酒場で、大阪の最初の空襲の時焼けてしまったが、「ダ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・という小説は九十何枚かで一応結んだが、あの小説はあれから何拾枚もかきつづけられる作品だった。ダイスのマダムの妹を書こうというところで終ったが、あれは「世相」の中でさまざまな人間のいやらしさを書いて来た作者が、あの妹を見てはじめて清純なものに・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・れらは奇物名品をつらね、珍味佳肴を供し、華美相競うていたずらに奢侈の風を誇りしに過ぎざるていたらくなれば、未だ以て真誠の茶道を解するものとは称し難く、降って義政公の時代に及び、珠光なるもの出でて初めて台子真行の法を講じ、之を紹鴎に伝え、紹鴎・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・海城から東煙台、甘泉堡、この次の兵站部所在地は新台子といって、まだ一里くらいある。そこまで行かなければ宿るべき家もない。 行くことにして歩き出した。 疲れ切っているから難儀だが、車よりはかえっていい。胸は依然として苦しいが、どうもい・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・みでは、まだ人生の希望をすてなかったみんなふり出しでは、健康であった心も、正しかったみんな、中休みではまだ自分のコースを話し合って けれども、自分のダイスがコースをはなれてゆくにつれて、も・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
出典:青空文庫