・・・頭のてっぺんが平べったいような、渋紙色の長面をした清浦子は、太白の羽織紐をだらりと中央に立っていたが、軈て後を向き、赤いダリアの花一輪つみとった。それを、「童女像」のように片手にもって、撮影された。 一ときのざわめきが消えた。四辺は・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・ お豊さんは手拭いを放して、両手をだらりと垂れて、ご新造と向き合って立った。顔からは笑みが消え失せた。「わたし仲平さんはえらい方だと思っていますが、ご亭主にするのはいやでございます」冷然として言い放った。 お豊さんの拒絶があまり・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・目をねむッて気を落ちつけ、一心に陀羅尼経を読もうとしても、脳の中には感じがない。「有にあらず。無にあらず、動にあらず、静にあらず、赤にあらず、白にあらず……」その句も忍藻の身に似ている。 人の顔さえ傍に見えれば母はそれと相談したくなる。・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫