・・・問題にしなかったような題目をつかまえ、あるいは従来行なわれなかった毛色の変わった研究方法を遂行しようとするものは、たいていだれからも相手にされないか、陰であるいはまともにばかにされるか、あるいは正面の壇上からしかられるにきまっている。そうし・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・聴衆は盛んな拍手をあびせかけて幾度か彼を壇上に呼び上げた。四月二十三日 朝食後に出て見ると左舷に白く光った陸地が見える。ちょっと見ると雪ででもおおわれているようであるが、無論雪ではなくて白い砂か土だろう。珍しい景色である・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・この講堂建設以来この壇上で発せられた人間の声の中で、これくらい珍しいものはなかったに相違ない。忠君愛国仁義礼智などと直接なんらの交渉をも持たない「瓜や茄子の花盛り」が高唱され、その終わりにはかの全く無意味でそして最も平民的なはやしのリフレイ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・壱岐殿坂教会で海老名弾正の説教を聞いた。池の端のミルクホールで物質とエネルギーと神とを論じた。 TMの家の前が加賀様の盲長屋である。震災に焼けなかったお蔭で、ぼろぼろにはなったが、昔の姿の名残を止めている。ここの屋根の下に賄いの小川の食・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・い学界の中にはまれに変わり種の人間もいて、流行の問題などには目もくれず、自分の思うままに裸の自然に対面して真なるものの探究に没頭する人もあるから、いつの日にかこれらの物理学圏外の物理現象が一躍して中央壇上に幅をきかすことがないとも限らないで・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・と答えたアーサーは今更という面持である。「罪あるは高きをも辞せざるか」とモードレッドは再び王に向って問う。 アーサーは我とわが胸を敲いて「黄金の冠は邪の頭に戴かず。天子の衣は悪を隠さず」と壇上に延び上る。肩に括る緋の衣の、裾は開けて・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・したがって西日がカンカン照って暑くはあるが、せっかくの建物に対しても、あなた方は来て見る必要があり、また我々は講演をする義務があるとでも言おうか、まアあるものとしてこの壇上に立った訳である。 そこで「道楽と職業」という題。道楽と云います・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・せり上る時はセビロの仁木弾正だね。穴の中は電気灯であかるい。汽車は五分ごとに出る。今日はすいている、善按排だ。隣りのものも前のものも次の車のものも皆新聞か雑誌を出して読んでいる。これが一種の習慣なのである。吾輩は穴の中ではどうしても本などは・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ところがその発会式が広い講堂で行なわれた時に、何かの機でしたろう、一人の会員が壇上に立って演説めいた事をやりました。ところが会員ではあったけれども私の意見には大分反対のところもあったので、私はその前ずいぶんその会の主意を攻撃していたように記・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・そんなら銭の費らん研究法をしなくてはならんが、其には自分を犠牲にして解剖壇上に乗せて、解剖学を研究するより外仕方がない。当時は、医学上の大発見の為に毒薬を仰いだりした人の話が頭にあったから、そんな犠牲心も起したんだ。即ち私の心的要素を種々の・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫