・・・そんな事は、まだその頃ありました、精盛薬館、一二を、掛売で談ずるだけの、余裕があっていう事です。 このありさまは、ちょっと物議になりました。主人の留守で。二階から覗いた投機家が、容易ならぬ沙汰をしたんですが、若い燕だか、小僧の蜂だか、そ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・が、何思いけむ小膝を拍ち、「すべて一心固りたるほど、強く恐しき者はなきが、鼻が難題を免れむには、こっちよりもそれ相当の難題を吹込みて、これだけのことをしさえすれば、それだけの望に応ずべしとこういう風に談ずるが第一手段に候なり、昔語にさること・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・女子供や隠居老人などが、らちもなき手真似をやって居るものは、固より数限りなくある、乍併之れらが到底、真の茶趣味を談ずるに足らぬは云うまでもない、それで世間一般から、茶の湯というものが、どういうことに思われて居るかと察するに、一は茶の湯という・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ 由来我々筆舌の徒ほど始末の悪いものはない。談ずる処は多くは実務に縁の遠い無用の空想であって、シカモ発言したら々として尽きないから対手になっていたら際限がない。沼南のような多忙な政治家が日に接踵する地方の有志家を撃退すると同じコツで我々・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・また、それを弾ずる人の名手たるを要しない。無心に子供の吹く笛のごときであってもいゝ。また、林に鳴る北風の唄でもいゝ。小鳥の啼声でもいゝ。時に、私達は、恍惚として、それに聞きとられることがある。そして、それは、また音楽について、教養あるがため・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・もし密教の大道理からいえば、荼枳尼も大日、他の諸天も大日、玄奥秘密の意義理趣を談ずる上からは、甲乙の分け隔てはなくなる故にとかくを言うのも愚なことであるが、先ず荼枳尼として置こう。荼枳尼天の形相、真言等をここに記するも益無きことであるし、か・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・その頃から既に、日本では酒が足りなくなっていて、僕が君たちと飲んで文学を談ずるのに甚だ不自由を感じはじめていた。あの頃、僕の三鷹の小さい家に、実にたくさんの大学生が遊びに来ていた。僕は自分の悲しみや怒りや恥を、たいてい小説で表現してしまって・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・それに調子が単純で弾ずる人に熱情がないからなおさらいかん。自分は素人考えで何でも楽器は指の先で弾くものだから女に適したものとばかり思うていたが中々そんな浅いものではない。日本人が西洋の楽器を取ってならす事はならすが音楽にならぬと云うのはつま・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・これを弾ずる原動力は句の「はたらき」であり「勢い」でなければならない。 発句は物を取り合わすればできる。それをよく取り合わせるのが上手というものである。しかしただむやみに二つも三つも取り集めてできるというのではない。黄金を打ち延べたよう・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・大阪へ来て文芸を談ずると云うことの可否は知りません。儲ける話でもしたら一番よかろうと思っているんですが、「文芸と道徳」では題をお聴きになっただけでも儲かりません。その内容をお聴きになってはなお儲かりません。けれども別に損をするというほどの縁・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫