・・・皆で、猿股の一ダースを入れた箱を一つずつ持って、部屋部屋を回って歩く。ジプシーのような、脊の低い区役所の吏員が、帳面と引合わせて、一人一人罹災民諸君を呼び出すのを、僕たちが一枚一枚、猿股を渡すという手はずであった。残念なことに、どの部屋で、・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・松島の景といえばただただ、松しまやああまつしまやまつしまやと古人もいいしのみとかや、一ツ一ツやがてくれけり千松島とつらねし技倆にては知らぬこと、われわれにては鉛筆の一ダース二ダースつかいてもこの景色をいい尽し得べしともおもえず。東西南北、前・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・私は学生がアレキサンダー大王その外何ダースかの征服者の事を少しも知らなくても、大した不幸だとは思わない。こういう人物が残した古文書的の遺産は、無駄なバラストとして記憶の重荷になるばかりである。どうしても古代に溯りたいなら、せめてサイラスやア・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・アインシュタイン自身も「自分の一般原理を理解しうる人は世界に一ダースとはいないだろう」というような意味の事を公言したと伝えられている。そしてこの言葉もまた人さまざまにいろいろに解釈されもてはやされている。 しかしこの「理解」という文字の・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・アインシュタインが自分の今度書くものを理解する人は世界じゅうに一ダースとはあるまいと言ったそうである。この言葉がまた例によって見当違いに誤解されて、坊間に持てはやされている。そして彼の理論の上に輝く何かしら神秘的の光環のようなものを想像して・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・「一ダース二十銭の鉛筆を二ダース半ではいくらですか。」先生が云いました。みんなちょっと運算してそれからだんだんさっと手をあげました。とうとうみんなあげました。キッコも仕方なくあげました。「キッコさん。」先生が云いました。キッコは勢よく立・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・皆結婚して一ダースも子供を生んで男に指図ばかりされるんだ」という周囲の野蛮な現実に対する憎悪である。アグネスは、結婚している女より叔母のヘレンの淫売婦と云われる生活の方が遙に人間として独立した権利をもっているとさえ思う。「もし彼女に『自分が・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・靴下を半ダース買って置いたら、すぐ失くなってしまった」 この温和な、無慾な男が有益な仕事をうまくさせようとして努力しているのに、周囲の誰も彼もがその仕事に対して軽率な冷淡な態度をとってそれを破壊させつつある有様はゴーリキイの心を痛めた。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫