・・・ 今問題の孕の地形を見ると、この海峡は、五万分の一の地形図を見れば、何人も疑う余地のないほど明瞭な地殻の割れ目である。すなわち東西に走る連山が南北に走る断層線で中断されたものである。さらにまたこの海峡の西側に比べると東側の山脈の脊梁は明・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・子細は、其主人、自然の役に立ぬべしために、其身相応の知行をあたへ置れしに、此恩は外にないし、自分の事に、身を捨るは、天理にそむく大悪人、いか程の手柄すればとて、是を高名とはいひ難し」とはっきりした言葉で本末の取りちがえを非難している。してみ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・これは地形学者の説を聞いてみなければ分らない。 平泉の旧跡はなるほど景勝の地である。都市というものの発達するに恰好な条件を具えていて、しかもそれが極めて小規模な地形であるのは面白いと思われた。鎌倉やまたこの平泉などのこうした地形を見ると・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 谷あいの土地であるから地形により数町はなれると風向がよほどちがう場合が多い。そういう場合に、いつでもまたどこでも、その時その場所の風に頭を向けている。時刻がだいたい同じなら太陽の方向は同じであると考えていいのであるから、太陽の影響は、・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 山裾の小川に沿った村落の狭い帯状の地帯だけがひどく損害を受けているのは、特別な地形地質のために生じた地震波の干渉にでもよるのか、ともかくも何か物理的にはっきりした意味のある現象であろうと思われたが、それは別問題として、丁度正にそういう・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・ 地殻の皺曲や割れ目やすべり面の週期性に因って第二次的に決定される地形の週期性のあること、それによってまたあらゆる天然ないし人間的な週期性が現われることも注意に値いする。 河流の蛇行径路については従来いろいろの研究があり、かの有名な・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・とある谷を下った所で、曲がりくねった道路と、その道ばたに榛の木が三四本まっ黄に染まったのを主題にして、やや複雑な地形に起伏するいろいろの畑地を画布の中へ取り入れた。 帰りに汽車の窓から見た景色は行きとは見違えるほどいっそう美しかった。す・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・九月二日 曇 朝大学へ行って破損の状況を見廻ってから、本郷通りを湯島五丁目辺まで行くと、綺麗に焼払われた湯島台の起伏した地形が一目に見え上野の森が思いもかけない近くに見えた。兵燹という文字が頭に浮んだ。また江戸以前のこの辺の景色・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・一体、あのような込み入った面白い地形がどうして出来たかという事は地質学者の議論の種になっているのです。また瀬戸内海の沿岸では一体に雨が少なかったり、また夏になると夕方風がすっかり凪いでしまって大変に蒸暑いいわゆる夕凪が名物になっております。・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・ここから先の地形が、なんとなく横浜大船間の丘陵起伏の模様と似通っていた。とある農家の裏畑では、若い女が畑仕事をしているのを見つけた。完全に発育している腰から下に裾の広がった袴を着けて、がんじょうな靴をはいて鍬をふるっている、下広がりのスタビ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫