・・・列を作って、地道な蟻のように、廃墟の地ならしにとりかかりました。それにこの神々が、人間の精神まで殺し終おせたように云われたのはまるで事実とは違う間違いですね。学舎の壁は火で煤け、天井はやっと夜露を凌ぐばかりだが学者達は半片の紙、半こわれの検・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ロンブロゾーは、そこまで社会の現象を探求したのであったがそこからは元へ戻って、だから犯罪型の人間は目下地道に暮していようと先天的な犯罪可能者であるという宿命論めいた断言を強めているのである。 ロンブロゾーの現実の掴みかたは、現象主義で、・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・において、作者は、従来階級人の獄中生活を描いた作品が、多かれ少なかれ、からみつかれていたロマンティシズムを払いのけて、今日の拡大されている階級的対立の現実から、きわめて地道に階級的普通人というものを書こうと努力していると思われる。 私は・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ 地道な子を育てようとして、そう行かなかったとしてそれは母だけの罪ではないことを作者は認めている。子供のことはもう家庭の中でだけ解決した時代が過ぎた。そのことをも作者は認めている。だが、所謂、それた若い者たちの、そのそれる必然の事訳が、・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・が労働階級の文化・文学を要望するあまり、現実の発展してゆくこまかい足もとをとばして、過去と現在の積極的文化・文学の業績の吸収と消化なしに新しい文学が生れうるかのような鼓舞激励を与えることは、かえって、地道な新しい文学の創造力の歩みだしを戸ま・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・ 地道な若い下級サラリーマンや、職業婦人の間に、今日はこんな世の中だからよい恋愛や結婚は望んでも駄目だという一種の絶望に似た気分があるのも事実だと思う。青年たちは、自分たちの薄給を身にこたえて知り、かつ自分の上役たちにさらわれてゆく若い・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・ 政道は地道である限りは、咎めの帰するところを問うものはない。一旦常に変った処置があると、誰の捌きかという詮議が起る。当主のお覚えめでたく、お側去らずに勤めている大目附役に、林外記というものがある。小才覚があるので、若殿様時代のお伽には・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫