・・・それやどうして、学校出のちゃきちゃきですから気の利いたもんや。だけれど健ちゃんこのごろ少し遊びだしたようで……今年の春も、えらいハイカラな風してきたのや。洋行でもするようなお荷物でもって。ちょっとも私なんかと話しちゃいないですわ。方々飲みあ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・白い男はやはり何も答えずに、ちゃきちゃきと鋏を鳴らし始めた。 鏡に映る影を一つ残らず見るつもりで眼をっていたが、鋏の鳴るたんびに黒い毛が飛んで来るので、恐ろしくなって、やがて眼を閉じた。すると白い男が、こう云った。「旦那は表の金魚売・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・江戸子のちゃきちゃきだ。親父は幕府の造船所に勤めていたものだ。それあの何とかいう爺いさんがいたっけなあ。勝安芳よ。勝なんぞも苦労をしたが、内の親父も苦労をしたもんだ。同じ苦労をしても、勝は靱い命を持っていやぁがるから生きていた。親父はこっく・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫