・・・彼処に房のついた長剣がある。あれは国家主義者の正義であろう。わたしはそう云う武器を見ながら、幾多の戦いを想像し、おのずから心悸の高まることがある、しかしまだ幸か不幸か、わたし自身その武器の一つを執りたいと思った記憶はない。 尊王・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・この鐘の最後の一打ちわずかに響きおわるころ夕煙巷をこめて東の林を離れし月影淡く小川の水に砕けそむれば近きわたりの騎馬隊の兵士が踵に届く長剣を左手にさげて早足に巷を上りゆく、続いて駄馬牽く馬子が鼻歌おもしろく、茶店の娘に声かけられても返事せぬ・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・金の時よ 玉の日よ汝帰らず その影を求めて我は 歎くのみ ああ移り行く世の姿 ああ移り行く世の姿塵をかぶりて 若人の帽子は古び 粗衣は裂け長剣は錆を こうむりてしたたる・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫