・・・それらの機械の精巧さ、小学校を出たばかりの女の子でも使えるまで高度に調整され、単純化された分業の過程というものは、少くとも日本の文明のある水準を語るものでなければならないと思う。そのことに疑点を挾むものはおそらく一人もないであろう。 と・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・一リットル二十三哥ぐらいで、赤坊の体に必要な処方で調製された牛乳が貰えるのだ。「クララ・ツェトキンの名による産院」には、こういう設備で百五十人分の寝台がある。「われわれのところはなかなか繁昌ですよ。一日に十五人から十八人ぐらい産婦さ・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・一方に、労働調整法が出来かかったりしているが、金融資本を守るためからの失業は誰にとっても脅かしの影となっていて、勤労大衆はまったく主権在民を実現して合理的に生産関係を独占から解放しなければ、生きてゆけないところまで来ているのである。そのきょ・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
・・・昨年五月発病当時も母は例の旅日記の下書きを整理中であったが、遂にそれを自身の手で完結する事が出来ず長逝したのであった。母が幼年及び少女時代を過した築地向島時代の思い出には、明治開化期前後の東京生活が髣髴として興味ふかく初霜には若かりし父母の・・・ 宮本百合子 「葭の影にそえて」
・・・それによると戦時利得税は、戦争によって国内に生じた富の偏在を調整するために、少からぬ道徳的な意味をも含んだ性質のものの筈である。誰が考えても、戦争によって多大な犠牲を払い、生活を根本的に壊された人民大衆に対して、ほんの一部の軍需生産者ばかり・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 敷島の烟を吹いていた犬塚が、「そうさ、死にたがっているそうだから、監獄で旨い物を食わせて、長生をさせて遣るが好かろう」と云って笑った。そして木村の方へ向いて、「これまで死刑になった奴は、献身者だというので、ひどく崇められているというじ・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫