・・・ 道祖神は、ちょいと語を切って、種々たる黄髪の頭を、懶げに傾けながら不相変呟くような、かすかな声で、「清くて読み奉らるる時には、上は梵天帝釈より下は恒河沙の諸仏菩薩まで、悉く聴聞せらるるものでござる。よって翁は下賤の悲しさに、御身近・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・ と片手で小膝をポンと敲き、「飲みながらが可い、召飯りながら聴聞をなさい。これえ、何を、お銚子を早く。」「唯、もう燗けてござりえす。」と女房が腰を浮かす、その裾端折で。 織次は、酔った勢で、とも思う事があったので、黙っていた・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・正直に申し上げると、あなたのお言葉の全部が、かならずしも私にとって頂門の一針というわけのものでも無かったし、また、あなたの大声叱咤が私の全身を震撼させたというわけでも無かったのです。決して負け惜しみで言っているわけではありません。あなたが御・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ ――ふっと思い出したが、ヴェルレエヌ、ね、あの人、一日、教会へ韋駄天走りに走っていって、さあ私は、ざんげする、告白する、何もかも白状する、ざんげ聴聞僧は、どこに居られる、さあ、さあ私は言ってしまう、とたいへんな意気込で、ざんげをはじめ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・その反対に今の新人はその基本作因に自信がなく、ぐらついている、というお言葉は、まさに頂門の一針にて、的確なものと思いました。自信を、持ちたいと思います。 けれども私たちは、自信を持つことが出来ません。どうしたのでしょう。私たちは、決して・・・ 太宰治 「自信の無さ」
・・・ このゲエテの結論は、私にとって、私のような気の多い作家にとって、まことに頂門の一針であろう。あまりに数多い、あれもこれもの猟犬を、それは正に世界中のありとあらゆる種属の猟犬だったのかも知れない、その猟犬を引き連れて、意気揚々と狩猟に出・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・おごそかな神祭の席にすわっている時、まじめな音楽の演奏を聞いている時、長上の訓諭を聴聞する時など、すべて改まってまじめな心持ちになってからだをちゃんと緊張しようとする時にきっとこれに襲われ悩まされたのである。床屋で顔に剃刀をあてられる時もこ・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・それでもどうしても、今夜のお説教を聴聞いたしたいというようでございましたので。もうどうかかまわずご講義をねがいとう存じます。」 梟の坊さんは空を見上げました。「殊勝なお心掛けじゃ。それなればこそ、たとえ脚をば折られても、二度と父母の・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫