・・・彼はその活きたくにへの愛護の本能によって、大蒙古の侵逼を直覚し、この厄難から、祖国を守らんがために、身の危険を忘れて、時の政権の把持者を警諫した。彼は国本を正しくすることによって、世を済い、人間の精神を建てなおすことによって国を建てなおそう・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・他の一つはその仮作物語と実社会と直角的に交叉線をなして居る、――物語そのものは垂直線をなして居るのであります。並行線をなして居るのは、作者の思想や感情や趣味が当時の実社会と同じであるところより生じ、交叉線をなすのは作者の思想感情趣味が当時の・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・ 私と直角に、こたつに足を突込んで寝ているようである。「いや、寒くない。」 私は上半身を起して、「窓から小便してもいいかね。」 と言った。「かまいませんわ。そのほうが簡単でいいわ。」「キクちゃんも、時々やるんじゃ・・・ 太宰治 「朝」
・・・ 私は自分の運命を直覚した。これは、しまった。私は学生の姿である。三十二歳の酔詩人ではなかった。ちょっとのお詫びでは、ゆるされそうもない。絶体絶命。逃げようか。「おい、おい。」重ねて呼ばれて、はっと我に帰った。私は、草原の中・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ながく躊躇をすればするほどこれはいよいよ薄気味わるいことになりそうだな、とそう直覚したので、私は自分にもなんのことやら意味の分らぬ微笑を無理して浮べながら、その男の坐っている縁台の端に腰をおろした。「けさ、とても固いするめを食ったものだ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・智慧を伴わない直覚は、アクシデントに過ぎない。まぐれ当りさ。飲みましょう、乾杯。談じ合いましょう。我らの真の敵は無言だ。どうも、言えば言うほど不安になって来る。誰かが袖をひいている。そっと、うしろを振りかえってみたい気持。だめなんだなあ、や・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・と云うので、教えられたままにそこから直角に曲って南へ正しい街道を求めながら人気の稀な多摩の原野を疾走した。広大な松林の中を一直線に切開いた道路は実に愉快なちょっと日本ばなれのした車路で、これは怪我の功名意外の拾い物であった。 帰路は夕日・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ 今唇の前後の方向の位置をXで表わし、唇の開きをYで表わすとるると、イエアオウと順に発音する場合にXYで表わされる直角坐標図の上の曲線はざっと半円形のようなものになる。次にXYの面に垂直なZ軸の方向に時間を取る。そうすると色々の母音を順・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・最後の場面ではこの兵士の行列は前とは直角だけ回転している。すなわち観客を背にして遠い砂漠の果ての地平線に向かって進行する。そうする事によってこのドラマの行く手の運命の茫漠たる事を暗示している。そうして観客の眼前でこの行列とそれに従うヒロイン・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ その他の曲にはなかなか複雑な仕組みのものもあったが、たとえば大小の弦楽器が多くは大小の曲線の曲線的運動で現わされ真鍮管楽器が短い直線の自身に直角な衝動的運動で現わされたり、太鼓の音が画面をいっさんに駆け抜ける扇形の放射線で現わされたり・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
出典:青空文庫