・・・この時には両肩と両腕とでUの字になることが要領じゃ、徒にここが直角になることは血液循環の上からも又樹液運行の上からも必要としない。この形になることが要領じゃ。わかったか。六番」兵卒六「わかりました。カンデラーブル、U字形であります。」・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・そして宝石のある山へ行くと、奇体に足が動かない。直覚だねえ。いや、それだから、却って困ることもあるよ。たとえば僕は一千九百十九年の七月に、アメリカのジャイアントアーム会社の依嘱を受けて、紅宝玉を探しにビルマへ行ったがね、やっぱりいつか足は紅・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・これらはみんな畜産の、その教師の語気について、豚が直覚したのである。(とにかくあいつら二人は、おれにたべものはよこすが、時々まるで北極の、空のような眼をして、おれのからだをじっと見る、実に何ともたまらない、とりつきばもないようなきびしいここ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 有島さんは非常に人を観るの直覚力が鋭くあったようですが、従ってその死に対しても可なり深い理智の力によってそれを見通されたことではあろうが、人間の力は単に、人間の脳力によって肯定され否定され得る理智の力、即ち首から上の事だけで解決の出来・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
・・・人情によって理解し、直覚し得たところを、理想に燃える知で文学にした。情と知とを二分別し得るものとすれば、彼は第一に情の人で、それを粗野に取扱われなかった情そのもののデリカシーと、後天的の品とがあったのだ。「此点は、私に性格の或類似からよ・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・けれども、その動機に鋭い直覚を持つ者は、切角の施物も、苦々しく味わうことは無いだろうか。 反対の或る一部は、まるで無感覚な状態に在る。ぼんやりと、耳を掠める風聞。――然し、兎も角、自分達の口腹の慾は満たされて行くのだし……必要なら、誰か・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・ 結局は、栄蔵の顔を見た瞬間に直覚した通り金の融通で、毎月十円ずつ出してくれと云った。 凡そ一年も出してもらえたらと栄蔵は云ったけれ共病気の性をよくしって居る主婦は、とうていそれだけの間になおらない事を知って居たし、沢山の子供の学費・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・その現実に対する角度は、芭蕉のように身を捨てて天地の間に感覚を研ぎすました芸術家の生涯にある鋭い直角的なものではなく、謂わば芭蕉を味うその境地を自ら味うとでも云うべき、二重性、並行性があり、それは、藤村の文章の独特な持ち味である一種の思い入・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ そこへ私は茶箪笥をおき、長火鉢をおき、長火鉢と直角にチャブ台をひかえて、上で仕事しないときは、そこに構えているわけです。八畳からすぐ台所だというのが私どもの暮しかたには大変いい工合なのですが、生憎井戸でね。朝まだ眠いのに家でガッチャンガッ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ そこに或る開き、殆ど直角の開きが存在するということを視るだけでは不足と思う。二つの運動の間で揉まれひしゃげたのは外ならぬ文学であり、自分との真の統一で作品を生むことで動いて行こうとする作家の、年齢や経験にかかわらない歴史的な苦悩の原因・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
出典:青空文庫