・・・ 私の強さは、もうちょんびりぼっちほか残って居ない様な、情ない有様になって来る。 燈を消そうかとも思わないではなかったけれ共、うす暗い部屋の中に、ポツネンと滅り込みそうになって居なければならない事を思うと、又それもいやである。暫くの・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ 奥さんがずぼらななりをして居るのに、いつもその子は、きちっとした風をして居た。 ちょくちょく下の妹もつれて来た。 ちょんびりな髪をお下げに結んで、重みでぬけて行きそうなリボンなどをかけて、大きな袂の小ざっぱりとしたのを着せられ・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 私など、今死ぬなんかと云ったら、どんなにまあ泣く事だろう。 ちょんびりも死にたくなんかない。 私はしたい事が、山ほどある。 私の行末は、明るくて嬉しい事ずくめである。 こんな事は、勿論、まるで雲をつかむ様な空想ではある・・・ 宮本百合子 「熱」
・・・ 私は、ちょんびりも、そう云う気持は持って居なかったけれ共、彼等が生れるとから、両親が町の地主にいじめられ、いろいろの体の好い「罠」に掛けられた事を小さいながら知り、それ等の憎むべき敵は皆自分達より良い着物を着、好い食物をたべて、自分達・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・とも切れの幅ひろく短い紐をちょんと横に結んだところもなかなか愛らしくて、びらしゃらもしないのである。 日本の着物の感覚で、色彩的ということがもっとこまやかな味いで感じられるようにならなければうそと思う。 近頃のけばけばしさ、というと・・・ 宮本百合子 「働くために」
・・・それが遠い、遠い向うにちょんぼり見えていて、却てそれが見える為めに、途中の暗黒が暗黒として感ぜられるようである。心理学者が「闇その物が見える」と云う場合に似た感じである。「こわいわねえ」と、お花は自分の足の指が、先きに立って歩いているお・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫